「気温」だけで熱中症危険度を判断すると危ない 気温だけでは図れない「熱」がある

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意識の高いスポーツ指導者のいる学校などは、校内にWBGT計を設置しています。大学の系列の早稲田実業中高もその一例ですが、それでも最初は、「大々的にやると部活ができなくなるのでは」という声もあったと聞きました。今では電光掲示板のようなものを作って情報共有しています。少なくとも中学生までは体温調節機能が未発達といえるので、データを参考に活動時間を調整したほうがいい。

部活に関して言えば、水分補給が大事です。いくら暑さに強くても、脱水したら汗がかけなくなる。汗で出した水分をすべてすぐに摂取するのは難しいのですが、その何割かは補充できるように飲水をつねに意識しましょう。

五輪は基準値を設けて超えたら競技中止を

──高齢者は室内でも熱中症になりますね。

高齢者は基礎代謝が低くなるので、熱が逃げないような調節がなされます。寒いときはいいが、暑くなるとミスマッチが起きる。老化で血管も硬くなり、自律神経系の調節も悪くなる。真夏でも着込んでいる高齢者は少なくありません。室内なら気温だけでいいのでモニタリングしたほうがいい。例えば大きな寒暖計を置いて、30℃になったらエアコンをかけるとか。

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それと、暑さに慣れる、つまり馴化(じゅんか)。運動をして心肺能力を高めると、それは体温調節機能につながります。例えば、寒いところでトレーニングしている北欧のランナーでも、暑さに対する耐性をある程度獲得している。高齢者も大きな健康上の問題がなければ、日が高くない朝や夕方に少し息切れするくらいの早歩きをするといい。環境の変化に強くなり、筋量もついて基礎代謝が高まります。

──馴化しているアスリートなら猛暑の五輪も大丈夫でしょうか。

人間としてどうしても調節できない環境、日射、湿度とかあるわけです。どんなにすばらしい体でも体温が40〜41℃を超えたら、ほかの要因も相まって、臓器が傷ついたりします。例えば、気温37℃、湿度100%では命にかかわります。観客も、会場の出入り口が限られているので入場まで長時間並ばなくてはいけないし、体調を崩しても、混雑のためすぐに外へ出られないおそれがあります。WBGTと競技別の体への負荷を計算して、基準値を超えたら中止、短縮という明確なルールを決めるべきでしょう。

(聞き手 筒井幹雄)

筒井 幹雄 東洋経済 記者

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つつい みきお / Mikio Tsutsui

『会社四季報』編集長などを経て、現職は編集委員。

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