《財務・会計講座》配当金と事業ポートフォリオ・マトリックス

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マイクロソフトは2004年7月20日に4年間で総額750億ドルという史上空前の株主還元計画を発表した。マイクロソフトは1975年の創業来、“配当しない会社”として知られ、株主も、配当よりも再投資によって得られるキャピタルゲインに期待する向きが強かった。そのため2003年に初めて配当支払いをした際には、報道各社がわざわざ取り上げたほどであった。

 2004年7月に発表されたのは、それまでに行った年間約17億ドルの普通配当を35億ドルに倍増させた上で、さらに特別一時配当として320億ドル、加えてその後4年間で300億ドルの自社株買いを行うという内容であった。2004年度の日本の上場企業における年間株主還元額(配当金と自己株買いの総額)は8兆円程度であったので、4年間に渡ってとはいうものの、マイクロソフト1社でそれに匹敵する規模(*1)の株主還元を行う、と宣言したわけである。

 マイクロソフトは米国ナスダック市場に上場しているが、ナスダック上場の企業、とりわけIT系の企業は、配当を行わずに資金は将来への投資にまわすことによって成長を加速し、株価の上昇で株主の期待に応えるという企業がほとんどである。その中でも特に群を抜く高成長企業であったマイクロソフトに何が起きたのであろうか?

■借入金増加によるコーポレートガバナンス効果とは

 そもそも企業は何のために配当を行うのか。配当は株主に対する利益の分配である。当期純利益に対する配当総額の割合を「配当性向」、自社株買いも含めた株主還元総額の当期純利益に対する割合を「総還元性向」と称している。いずれも、利益をその権利者である株主にどの程度、還元しているかの指標である。日本の上場企業の配当性向は2004年の23%以降、着実に上昇し、2008年には42%と欧米企業の30%~40%を超えたが、それまでは長い間20%台に低迷し、これをもって日本企業は株主還元に積極的ではない、株主を軽視していると言った論評が多かった。

 企業は株主に利益を還元すべきなのだろうか。還元すべきとすれば、それでは何%の配当性向が適当なのであろうか。この答えを解くカギが、ファイナンス理論で使う「フリーキャッシュフロー」である。

 フリーキャッシュフローは、企業が保有する資産・事業が生み出したキャッシュフローから、企業が成長していくために必要な二つの投資(設備投資のように企業が将来成長していくために必要な投資、そして企業規模の拡大にともなって増加する運転資本への追加投資)を控除した後に残るキャッシュフローであり、いわば企業として手元に残しておく必要のない、つまり使い道のない余剰キャッシュである。

*1マイクロソフトが同計画を発表した当時の為替レート(約112円/米ドル)で換算。
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