《財務・会計講座》配当金と事業ポートフォリオ・マトリックス

 では、このフリーキャッシュフローを投資家に返還せずにおくと、どうなるかというと、バランスシートに現預金が積み上がっていくことになる(なお、有利子負債がある場合には、当然のことながら利子の支払いそして必要に応じて借入金本体の返済に充てられ、残額がバランスシートに積み上がっていく)。

 マイクロソフトは、この大還元計画を発表した時点の前年度期末(2004年6月末)現在で、約605億ドルの現預金(短期投資を含む)を保有していた。同時点での総資産額が943億ドルであったので、なんと総資産の64%が現預金だったということになる。なお、同社は、2004年6月期に368億ドルの売上高に対して81億ドルの当期純利益、そして112億ドルのキャッシュ(会計上の営業キャッシュフローと投資キャッシュフローの合計額)を生み出していた。この経営状況が持続し、また年間配当金総額が従来どおり約17億ドルとすれば、毎年100億ドル近い現預金がバランスシートに積みあがっていく計算となる。

 フリーキャッシュフロー(FCF)は以下の式で計算される。
FCF = EBIT x (1-税率) + 減価償却費 - 投資 - 運転資本の増加額 (EBIT: 支払利息・税金控除前利益)

 この式の前半部分である「EBIT x (1-税率) + 減価償却費」は、企業が事業から生み出したキャッシュフローである。後半は先述した二つの投資、つまり企業として継続して成長していくために必要な設備投資やその他の事業投資といった投資、そして事業規模が拡大するにつれて拡大していく運転資本(事業運営から発生する資金の収支ずれ)の対前年度の増加額であり、これらの資金は取っておかなくてはならない。この二つの投資を行ったうえで資金が余れば、それは余剰キャッシュであり、特段の理由がない限り手元においておく必要はないことになる。この余剰キャッシュは企業として使い道がなければ投資家に返還すべきものであり、有利子負債の返済や株主への還元(配当や自己株式の取得)に振り向けられる。

 したがって、有利負債をゼロと想定した場合に株主に還元できる最大金額は年間のフリーキャッシュフローの金額となる。つまり、配当性向や総還元性向がどうなるかはフリーキャッシュフローがどの程度あるか次第ということになる。

■株主への利益還元計画は企業の成長ステージごとに異なる

 それではフリーキャッシュフローと企業の成長段階には何らかの相関性があるのであろうか。これは、フリーキャッシュフロー計算式の前半部分(企業が事業から生み出したキャッシュフロー)と後半部分(二つの投資)の関係を眺めればよい。

 まず、企業が設立された当初は、売上高もほとんどなく(つまり計算式の前半部分は赤字もしくは黒字であっても極めて小さい)、一方で、後半部分は大きな先行投資を行わねばならないため大きな赤字となる。したがってフリーキャッシュフローは大きな赤字となり、配当どころか増資や借入等による追加資金調達が必要となる。これがボストン コンサルティング グループの「ポートフォリオ・マトリックス」でいうところの「問題児」のフェーズである。

 企業が順調に成長し、売り上げ規模も大きくなってくると、前半部分のキャッシュフローの黒字幅が大きくなっていく一方、後半部分の二つの投資額の増加率も一巡し、フリーキャッシュフローは均衡化してくる。これが「花形(スター)」のフェーズである。

 さらに企業が成長(成熟)していくと、前半部分のキャッシュフローの黒字幅がさらに大きくなっていく一方で、後半部分の二つの投資額は頭打ちもしくは減少を始め、フリーキャッシュフローの黒字幅は拡大していく。これが「金のなる木」のフェーズである。

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