FRBが保有資産を減らす量的引き締めは、不動産などの資産価格を必要以上に押し上げた過剰なマネーを回収する、という目的がありました。大量の緩和マネーを市場に残したまま資産縮小が終了することになれば、世界的に過大な債務が膨らんでいく流れを止めることができなくなってしまいます。
アメリカが金融引き締めを中断したことによって、欧州や新興国では金融政策の自由度が高まったと考え始めています。その証左として、ECB(欧州中央銀行)は金融政策の正常化に向けて量的緩和を2018年末に打ち切ったものの、次の段階である利上げについては2019年末まで行わないことを決めたばかりか、銀行の貸し出しを促進するための長期資金供給オペを再開までしているのです。
インドが想定外の利下げを断行し(国や民間の債務の膨らみを鑑みれば、到底利下げはできる状況ではない)、ほかの新興国もインドに続く傾向が鮮明になってきています。
その結果、金融危機後の緩和策に伴って蓄積してきた債務リスクは、解消のメドがまったく立たなくなっています。例えば、アメリカではジャンク債(格付けが低く、債務不履行のリスクが高い債券)の発行が昨年12月はゼロだったのですが、今年に入って低格付け企業や新興国による資金調達が再び活発化しているのです。
金融政策の正常化が想定以上に遅れれば、企業や新興国の債務削減は一向に進むことがなく、債務バブルの崩壊を後押しする不確実性を高めていってしまうというわけです。
市場は「緩みきった状況」にどれだけ耐えられるのか
いつも引き合いに出している国際金融協会の調査によれば、世界の債務総額は2018年末時点で247兆ドルとなり、世界のGDP総額の3.2倍に膨らんでいるといいます。景気の回復期には財政赤字や企業債務は減っていくのがこれまでの常識でしたが、今の景気回復期には日米や新興国で財政赤字が膨らんでいるのに加えて、アメリカや新興国の企業は債務を膨らませている異常事態にあるといえるのです。
米議会予算局が1月末に公表した長期的な財政見通しによれば、財政赤字は2019会計年度の8970億ドルから、2029会計年度には1兆3700億ドルに拡大し、2019年度と比べて1.5倍に膨らむと試算しています。
トランプ政権が景気の大幅な減速を回避するために追加減税に走るようなことがあれば、財政赤字は試算以上に膨らむのは避けられないでしょう。景気後退や株価下落に怯えるFRBは、アメリカの景気が大幅に減速したら金融引き締めをやめるどころか、十分な緩和余地がないにもかかわらず、市場の催促から緩和に舵を切ることになるかもしれません。
今のところ、世界的な経済危機や金融危機の再来の兆しはないといえますが、中国とアメリカの目先を重視する経済金融政策によって、危機の原因となる債務が拡大しているのは紛れもない事実です。たとえ景気後退を1~2年先送りすることができたとしても、世界の株式市場や債券市場は、あと何年もこのような緩みきった状況には耐えられないでしょう。
危機の芽は、ある日突然、吹き出します。次に来る世界的な不況が普通の不況ではなく、債務バブルの崩壊による大不況になる可能性を、頭の片隅に入れておく必要はあると思います。
私のブログ『経済を読む』でも、局面の変化に応じて経済の流れを分析しています。ぜひ参考にしていただければ幸いです。
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