中国経済の減速の根本原因は、生産年齢人口がピークを過ぎて潜在成長率が落ちているなかで、無理にでも成長率を押し上げようとして、債務に依存した非効率な設備投資やインフラ投資を推し進めているからです。
日本経済はバブル崩壊後、企業が設備・債務・雇用の過剰に苦しみ、長期低迷に陥りましたが、中国も今まさに1990年代前半の日本と同じ状況にあるといえるでしょう。
中国がバランスシート不況に陥る可能性が高まっている
BIS(国際決済銀行)が公表している統計によれば、中国の合計債務(公的債務+民間債務)の対GDP比は2018年3月末時点で261%まで上昇しています。そのGDP比の内訳を見ると、一般政府47.8%、民間企業164.1%、家計49.3%となっていて、とりわけ民間企業の債務は金額にして22.1兆ドルとアメリカの2倍、ユーロ圏の1.6倍にまで達しているのです。
仮に中国の経済成長率が公表どおり6%を超えていても、多くの中国企業が巨額の債務を抱えている今となっては、このような民間債務の膨張が5年後も持続可能とは考えられません。
中国経済の下振れ要因は根が深く、米中貿易摩擦もその一因にすぎません。中国がこのまま無理を重ねて景気の下支えを続けるようなことがあれば、1~2年は景気の底割れを防ぐことができるかもしれませんが、副作用として、中国企業の効率性はいっそう低下し、債務の膨張がバブル崩壊に導く可能性を高めていってしまうでしょう。
要するに、かつての日本と同じように、中国は不良債権の増加によるバランスシート不況に陥る可能性が高まっているのです。
中国はこれまで、政府の経済力や統制力で金融リスクを抑え込んできました。しかし、民間部門で膨張し続けている債務は、中国国内だけでなく、世界経済にとって大きなリスクとなりつつあります。中国の債務バブルがはじけるような事態になれば、中国経済の恩恵を受けている日本やほかのアジア諸国、欧州諸国は当然として、アメリカも経済と金融の両面で大きな打撃を受けることが避けられそうもありません。
このような中国の状況を検証するだけで、私は今後の世界経済のシナリオを悲観的な方向へ改めざるをえませんが、さらにアメリカの最近の政策が悲観的方向へと「補強」していきます。アメリカは、金融引き締め路線の凍結を明確にしたのです。
2019年に入ってFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)は、利上げの停止と保有資産縮小の見直しを表明し、利上げに関しては2019年のうちは行わないことを決定しています。FRBは次の景気後退に備えて十分な緩和余地をつくるため、政策金利の3.5%までの引き上げを目指していましたが、足元では2.25~2.50%にとどまっています。
保有資産の縮小に関しても、2019年9月に縮小を停止することを決定しています。パウエルFRB議長は、9000億ドルから最大で4兆5000億ドルまで膨らんだ保有資産の規模を、2021~2022年までに2兆5000億~3兆ドルまで減らすとしていました。しかし今では3兆5000億ドルまで減らすのが精一杯な状況になっています。
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