甲子園優勝監督のシンプルでしつこい指導法

前橋育英・荒井直樹監督のリーダーシップ(上)

甲子園で感じた「信じる力」

躍進を遂げる組織には、目的地までの航路を的確に示す船頭が必ずいる。

2013年、夏の甲子園に初めて出場した前橋育英高校を初優勝に導いたのが、監督の荒井直樹だ。指揮官によると、「13年のチームより、12年のチームのほうが戦力的には上だった」という。そんなチームがなぜ、全国3957校の頂点に立つことができたのだろうか。選手たちにとって大きかったのが、荒井の果たしたモチベーターとしての役割だ。

(写真:北川外志廣/アフロ)

「技術を教えるだけでは、チームを強くするのは難しい。例えば同じことを言われたとしても、誰に言われたかで感じ方は全然違う。信頼関係がなければ、『こうだぞ』と言っても『何だよ』となると思う。でも信頼関係があれば、『そうだな』となる。この違いが大きい。そのためには普段の時間をどれだけ選手と共有して、こちらの意志を伝えるか」

宮崎県代表の延岡学園と対戦した13年夏の甲子園決勝。4回裏、前橋育英は守備のミスが絡み、2点を先制された。さらに2死満塁からライト前タイムリーで3点目を奪われたものの、4点目のホームを狙った走者をライトが好返球でアウトにする。ベンチに帰ってきた選手たちを、荒井は「4点目が入らなかったのは大きいよな」と叱咤した。そして5回表に3点を挙げて追いつくと、こんな言葉で後押ししている。

「いまは五分じゃないぞ。うちのほうが有利だ。うちは先発が投げ続けているけど、相手は3人のピッチャーを使っている」

野球の試合には「流れ」と言われるものが存在する。事実、好守備で4回の守りを終えた前橋育英は5回表、3点を奪って同点に追いついた。そして7回に1点を勝ち越し、甲子園で初出場初優勝の快挙を達成した。

試合中、荒井は「流れ」を選手たちに話すようにしている。

「正直、自分の見た流れが本当に合っているかはわからない。でも、『そうなるんだ』という意志を込めている。そこまで選手たちと信頼関係を築いてきたという自負がある。流れについて話すと、不思議と試合展開がポッと変わることがある。今回の甲子園では、信じる力を強く感じた」

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