甲子園優勝監督のシンプルでしつこい指導法

前橋育英・荒井直樹監督のリーダーシップ(上)

脇役が見せた努力する姿勢

指導者は、考え方も態度も合理的でなければならない。選手に対し、場を取り繕うウソを認めない荒井は、自身が悪い場合は素直に頭を下げる。

夏の甲子園1回戦の岩国商業戦。初回にスリーベースヒットで無死3塁の先制機をつくると、2番の楠裕貴にスクイズのサインを出した。しかし、空振りに終わる。通常の大会ではスクイズを指示するような場面ではなく、荒井は「失敗したな」と思った。楠は打撃不振に陥り、3回戦の横浜戦ではスタメンから外れた。

続く準決勝の前日、素振りをする楠に荒井は謝罪した。

「スクイズを出したのは俺のミスだ。お前のよさを潰して、悪かったな」

楠は強い視線を返し、こう言った。

「いや、僕が決めれば良かった話です」

楠は2年秋、3塁コーチを務める控え選手だった。サードの2、3番手で、Bチームでもなかなかヒットを打てずにいた。

だが、必死の努力を怠らなかった。春にファーストのレギュラーが負傷すると、長身を買われて代役に指名される。及第点のプレーを見せ、準レギュラーに登り詰めた。

夏の大会が近づくと、打撃が向上していた。全体練習後、室内練習場で打撃マシーンを使い、苦手な変化球を毎日200球打ち込んだ。そうして、ファーストのレギュラーの座を勝ち取った。スタメン復帰した甲子園準決勝では大会初安打がチームに2点目を呼び込むタイムリーになると、決勝でも1安打を放って優勝に貢献している。

「準決勝で初ヒットを打ってくれたときは、本当にうれしかった。楠のような選手が頑張ってくれたことが、優勝できた要因の一つだと思う」

戦力的に見れば、初優勝の原動力となったのは4番でキャプテン、さらに荒井の長男でもある荒井海斗(明治大に進学)や、エースで今秋のドラフト1位候補に挙がる高橋光成だろう。ただ、楠のような脇役が見せた努力する姿勢、あきらめない心がチームにもたらせた力を決して見逃すことはできない。

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