※記事の前編はこちら:甲子園優勝監督のシンプルでしつこい指導法
苦く、貴重な敗戦
夏の甲子園初出場初優勝の後に待っていたのは、天と地ほどに異なる結果だった。
2013年9月に行われた秋季高校野球群馬大会で、前橋育英は太田工業に3対4で初戦敗退。13年夏の甲子園優勝校で、ドラフト1位候補の好投手・髙橋光成を擁す強豪は、翌年春のセンバツ出場が絶望的になった。
「もし勝っていたら、僕も選手も勘違いしていた。あの敗戦で、ようやく夏が終わった感じがした」
前橋育英を率いる荒井直樹は、初戦敗退に前を向いた。より正確に言えば、屈辱から目をそらさず、正面から受け止めた。
「甲子園で1回勝ったから、前向きにとらえられる部分はある。僕は今まで、何度も後ろ向きになってきた。精神的に追いつめられた時期もある。でも結局、逃げても逃げ切れない。その中に入って、何とかするしかない。この年齢(49歳)になってわかってきたから、選手にもそういう気持ちにさせたい」
失敗をどう受け止めるかで、人の度量は問われる。将来の糧にすることができれば、悪い結果にも意味が出てくる。
前橋育英が秋季大会で初戦敗退した一因は、エースの髙橋が前日に合流したことだった。日本代表として18UW杯に参加しており、台湾から帰国したのは新チームとして初めての公式戦を迎える1日前。太田工業戦では1対3でリードされた4回から登板したものの、身体には疲労が残り、捕手とバッテリーを組むのはこの日が初めてだった。波に乗れない髙橋は6回に1点を奪われ、チームはそのまま敗れた。
まだ2年生の髙橋には、日本代表入りを辞退する選択肢もあった。たとえば前年、桐光学園の2年生だった松井裕樹(現・楽天)は秋季大会を優先している。
しかし、荒井は髙橋を代表に送り出した。
「いろんな人に『なんで2年生なのに出したの?』って言われたけど、断る選択肢を知らなかった(笑)。甲子園で優勝して変な自信をつけると、残り1年が容易でなかっただろうけど、国際試合で打たれた経験がプラスになると思う。群馬の田舎出身でのんびりした子だけど、帰ってきてから取り組み方がよくなった。いろんなことを積極的に行うようになり、代表に選んでいただいてよかった」
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