リスクと犠牲を教えない、日本のエリート教育

山折哲雄×竹内洋(その3)

山折:海外にはできるだけ若いときに行ったほうがいい。「今のグローバリゼーションの時代に、どう若者を育てたらいいのでしょうか」とよく聞かれますが、まずはいちばん厳しいインドやアフリカに修学旅行で行ったらいいと思っているんですよ。

山折哲雄(やまおり・てつお)
こころを育む総合フォーラム座長
1931年、サンフランシスコ生まれ。岩 手県花巻市で育つ。宗教学専攻。東北大学文学部印度哲学科卒業。駒沢大学助教授、東北大学助教授、国立歴史民俗博物館教授、国際日本文化研究センター教 授、同所長などを歴任。『こころの作法』『いま、こころを育むとは』など著書多数

竹内:それはいい案だと思います。ただ実際には、豊かで快適なところに行っています。今の日本社会は事なかれの官僚制化していますから、先生も危険のあるところに行かせるのが嫌なのでしょう。

山折:親も事故を恐れて。

竹内:そうですね。

山折:だからやっぱり、どうしようもないところまで来ていますよね。なにか打開策はありませんか?

竹内:私の大学時代は、「官僚制化」というのが社会学のメインテーマで、マックス・ウェーバーを読み込みました。今の日本は、ウェーバーの言う典型的な官僚制化社会になっています。今こそ「官僚制化とはどういうことなのか」を考えたほうがいい。

山折:今の日本の官僚制化は、正当な発展のかたちなのでしょうか? それとも日本的なスタイルなのでしょうか?

竹内:私は日本的なものが入って、変なかたちになっていると思いますよね。

「リスクは絶対ゼロにする」というのは、ちょっとありえない発想です。大学時代に、物理学者の書いた倫理学の本を読んだのですが、その本では、「確率論的に絶対ゼロということは、交通事故でも何でもありえないのだから、何%ぐらいを超えたら大問題と設定しなさい」と書いていました。今は、皆が「確率ゼロはありえない」と思いながらも、「絶対、再発させてはならない」と言いますよね。あれは、何なのですかね。

山折:100%の安全安心などないことは、誰でもわかることですが、言うときはそう言うんですよね。だから危機的な問題を議論するときに、いつも他人事です。わが事ではないのです。かつては、わが事になればそんなことは言えない、という常識的な感覚がありました。それが本当の教養ですよ。それがないから、いつも他人事になってしまう。

竹内:なるほど。

山折:メディアがそうです。もう社説の論調なんか典型ではありませんか。

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