クセが強い!北朝鮮「テレビCM」不思議な世界 製造工程の紹介がマニアックすぎる

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しかし、楽しいはずのショッピングはウンシルを幸せにはしない。家で1人になったウンシルはメークを試みるが、途中でイライラを募らせ、化粧品を投げ捨てる。美しい服からいつもの制服に着替え、工場へと戻るウンシル。妻が欲しがっているのは高価な化粧品やきらびやかな服ではなく、自尊心とやりがいだということをようやく悟ったヨンチョルは、妻が工場で働き続けることに同意する。

もっとも、『新婚夫婦』に込められたプロパガンダは、スズメを蹴散らすのに大砲を持ち出すようなものだった。1955年の北朝鮮では、実は経済の復興どころか、「静かな飢饉」が起こっていたからだ。当時の北朝鮮国民にとって最大の関心事は、いかに生き延びるか。華美な消費に警告を発しなければならないような状況では、まったくなかった。

とはいえ、この映画で示された道徳観こそが、北朝鮮国民が従うべき規範だった。共産主義によってもたらされた繁栄を称えながらも、決して消費文明に染まることはない――そんなモラルが国民には求められていたのである。このような規範は1980年後半まで維持されることになる。

食糧難と将軍様と化粧品

しかし、食糧難から大量の餓死者が出た「苦難の行軍」時代(1990年代半ば~1990年代後半)になると、このような規範にも修正が加えられるようになった。チュチェ思想による経済的成功のイメージは「ジャガイモやトウモロコシの豊作」へと後退を迫られ、「ぜいたくは敵だ」のプロパガンダが大音量で鳴り響くようになる。

映画に出てくるヒロインのイメージも変わった。当時の映画のヒロインは、労働によってやつれ、汗と土まみれになった人物として描かれている。化粧やおしゃれは論外だ。

2000年代に入り、市場経済の密かな導入によって経済が安定すると、プロパガンダも変容。すべての成功は聡明なる最高指導者、金正日総書記、ならびに北朝鮮の優秀な共産主義システムのおかげ、という路線がとられることになった。

強調されたのは物質的な豊かさと身だしなみ。女性には、偉大なる最高指導者の権限において、美しく着飾る権利が与えられた。

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