クセが強い!北朝鮮「テレビCM」不思議な世界 製造工程の紹介がマニアックすぎる
西側のテイストで作られた広告は、瞬く間に笑いのネタになった。たとえば、こんなコマーシャル。若い男性がチューインガムのパッケージを開けると、たくさんの美女が寄ってくる。あるソビエトの詩人は、皮肉たっぷりに書いた。「この宣伝を見るかぎり、共産党の長老が言っていたことは本当だった。見てみるがいい。資本主義国で暮らす女性は絶望的なまでに貧しい。1パックのガムを差し出すだけで、女の子を何人も買うことができるくらいだ」。
「消費は悪」が基本スタンス
一方、北朝鮮の政策当局者は、資本主義のイデオロギーがソビエトにしみ込んでいく様子をじっくりと観察していた。北朝鮮の後ろ盾となっていたのはソビエトだが、北朝鮮の共産主義はソビエトよりもずっと過激だ。軍事と重工業を最優先する北朝鮮は「兵舎の共産主義」であり、「消費は悪」とするプロパガンダを続けていた。称揚されていたのは、利他主義と倹約だ。
だが、そんな北朝鮮でも国家イデオロギーが消費文化に接触を試みた瞬間は何度もある。いずれもプロパガンダ上の目的からである。
朝鮮戦争が休戦を迎えた後、北朝鮮政府は経済の復興を急いでいた。当時、日用品や食品が商店の棚に戻ってきたことは、政府の取り組みが効果を上げている証しと激賞された。
これらの商品が手に入るようになったのは朝鮮労働党のおかげであり、国民は感謝しなくてはならない――そんな雰囲気を醸成しようとしたのである。しかし、政府のプロパガンダは、国民に消費を戒めるようなメッセージも同時に発していた。このような2種類のプロパガンダがミックスされているのが、1955年の映画『新婚夫婦』だ。
新妻のウンシルは、やりがいを求めて結婚後も工場での仕事を辞めようとしない。しかし、鉄道エンジニアをしている夫のヨンチョルは稼ぎもよく、妻が専業主婦になることにこだわっていた。
デパートでの買い物シーン。ウンシルとヨンチョルのほかにも、幸せそうな客がたくさんの商品を前に買い物を楽しんでいる。デパートで、ヨンチョルは妻に高価な化粧品を買い与える。