2008年のリーマンショックをきっかけにして世界的な経済危機が勃発すると、資本主義と民主主義のあいだで保たれていた微妙な均衡がとうとう破壊されてしまいました。
富裕な資本家ばかりが経済成長の恩恵にあずかる一方で、不況になった途端に普通の人々にしわ寄せが集中するような経済モデルは、多くの人々にとって受け入れがたいものだったからです。
当時のアメリカやヨーロッパでは、失業や賃金カットによって生活苦に陥る人々が大量に発生しましたが、世界的に好景気だといわれる今でも暮らし向きがよくならない人々が多いといいます。
アメリカでは経済危機の前から「地殻変動」が起きていた
その結果として、人々の政治に対する不信はかつてないほど高まっており、一部の国々では民主主義が危機に瀕しているといっても過言ではない状況が生まれているのです。
実のところ、世界的な経済危機が起こるずっと以前から、アメリカでは静かなる地殻変動が起こっていたようです。高卒以下の白人中年層の死亡率が、1990年代から一貫して上昇し続けていたのです。その原因として明らかになっているのは、オピオイド(鎮痛剤)による中毒死や自殺などに代表される「絶望死」です。なぜ高卒以下の白人中年層に絶望死が広がっていたのかというと、彼らの多くは人生がうまくいかず、働く意志もなく、生きる意味を失っていたからです。
1970年代に高校を卒業したアメリカ人にとって、彼らの親の世代が就いていた仕事を得ることはさほど難しくありませんでした。高卒で働きながらスキルを身に付けて、中産階級の生活を送ることは十分に可能だったのです。しかし、1980年代のレーガン政権以降、労働組合の力が弱められていった状況下では、労働者の賃金は思うように上がらなくなり、企業の利益ばかりが膨らむ傾向が鮮明になっていきました。
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