なるほど、ヤマハがベーゼンドルファーの技術面に一切口を出さなかったというのはとても新鮮な驚きだ。
素人考えとしては、ヤマハの革新的な技術とベーゼンドルファーの伝統が合わさったときに生まれるすばらしいピアノに期待してしまうのだが、現実はまったくそうではなく、技術者同士の交流すらもないという。
「彼らは1828年の創業以来積み重ねてきた伝統や技術をかたくなに守り続けています。暖かな音色や弦楽器との融和性など、ヤマハのピアノとはまったく違う音楽の場で活躍できるピアノを目指しています。それが彼らの持つ価値であり、彼ら自身もそれをさらに磨いていこうと願っています。そこにヤマハの意向を入れるつもりはまったくありません」
伊藤執行役員のこの言葉が心に残る。どうやら伝統を尊重するという意思こそが双方共通の考え方だったようだ。
ベーゼンドルファーの黒字化にヤマハが貢献
その結果として10年が経過した現在の状況はと言えば、ベーゼンドルファー自体の売上に特に大きな変化はないようだが、財務基盤が安定してきたことによって赤字続きの収益が大幅に改善され、現在は黒字化しているという。
一方のヤマハにとって、今回の買収は成功だったのだろうか?
「1980年のピーク時には全世界で100万台のアコースティックピアノが作られていました。それが30年あまり過ぎた現在はピーク時の半分弱に減少しています。その反面デジタルピアノの販売数が伸びていますので、合わせると全世界で年間200万台以上のピアノが生産されています。
ヤマハとしては、さまざまなニーズに即した製品を出していくことを目標に掲げていますので、結果的にはアコースティック楽器の中にベーゼンドルファーという個性的な商品を持てたことはとても有意義だと考えています。買収に要した費用以上にベーゼンドルファーから学んだことや発見できたことが、数字には現れない価値を大いにもたらしてくれたと認識しています」というのがヤマハ側の見解だ。
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