ベーゼンドルファーのピアノは何が違うのか ヤマハ傘下の世界3大ピアノメーカーの今

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そう、つまり「世界3大ピアノ・ブランド」の1つベーゼンドルファーは、現在日本のヤマハ傘下にあるのだ。これはなにやらクルマ業界のブランド吸収合併に似ているような気がする。

たとえてみれば、「トヨタ」が英国の老舗ブランド「ジャガー」を傘下に収めたようなものだ。ピアノ・ファンの間で当時大きな話題となった“ヤマハによるベーゼンドルファー買収”から10年。この出来事は、2つのピアノ・メーカーにとってどのような結果をもたらしたのだろう。

窮地のベーゼンドルファーを買収した意味

「1980年をピークとするピアノ生産は、その後の人口減少などに伴う売り上げ減が予想される中、ヤマハでは、お客様ニーズに応える高付加価値製品を提供し、ブランド力を強化していくことで、更なる拡販を目指しておりました。そんな折に、世界最古のピアノメーカーとも言われるベーゼンドルファー買収の話が持ち上がり、彼らと一緒にやっていくことがヤマハグループとしてのプレミアム領域のピアノを広げることにつながるのではないかと考えたことがきっかけでした」

職人が加工する伝統のロゴ(写真:ヤマハ)

こう語るのは、ヤマハ楽器事業本部部長の伊藤執行役員。調査のためにウィーンのベーゼンドルファーを視察した伊藤氏が目にしたものは、客からのオーダーとは関係なく材料の購入を行い、自らの考えに基づいた生産を行っていた結果、1年以上前の作りかけのピアノがゴロゴロしている工場の状況だったという。「これはだめだ」ということで、まずは効率化を提案し、経営難に陥っていたベーゼンドルファーを回復させることに専念する。

一方ベーゼンドルファー側はヤマハ傘下に収まることをどのように考えていたのだろう。ウィーンのベーゼンドルファーに長く勤めてきた調律師の井上雅士氏はこう語る。

「ヤマハの傘下に入ることが決まった際には社内に動揺がありましたね。私のイメージの中では、日本的な大量生産を押し付けられるのではないかという危惧です。ところがそれは大きな誤解だったのです。“あなたたちの文化を守って良いピアノを作ってください”というヤマハからのメッセージは、私たちベーゼンドルファーに勤務する全員の気持ちをポジティブなものに変えてくれました。正直、ヤマハ傘下に収まるまでの4年ほどは、先行きがまったく見えず、とても不安定な状態だったのです。これでは気持ちも落ち着かず、良い音のピアノを作る環境とは程遠い環境でした。それが改善されたことはとても良かったと感じています」

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