《財務・会計講座》青色LED訴訟をファイナンス的に審判すると?~特許の価値の算定方法~

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■功を成した従業員に報いる方法は金銭の支払いだけではない

 さて、判決のロジックの後半では、青色LEDの発明に当たり、中村氏の貢献度は50%と判断されている。

判決のロジック(後半)
(3)発明者の貢献度:
 (3-1)発明にあたっての被告の具体的貢献: 原告の米国留学費用と初期設備投資費用(3億円)。
 (3-2)原告による実験研究開発コスト: 原告は独力で、まったく独自の発想に基づいて本件特許を発明したことから、原告の貢献度は50%と認定。
(4)(2)と(3)から、職務発明の相当対価は以下のようにして求められる。
独占の利益×原告の貢献度
=120860百万円×50%
=60430百万円つまり604億円

 ただ諸々勘案する過程で、この50%であった貢献度の数値は、最終的には5%相当まで下げられた。
 一審判決に対して日亜側が控訴し、2005年1月11日に東京高裁で成立した和解案では結局、日亜が対価として6億800万円とその遅延損害金約2億3000万円の計約8億4000万円を支払う内容となった。和解勧告の具体的内容は、特許による利益を売上高の3.5~5.0%とした上で、「中村氏の貢献度は5%相当である」との判断であった。

 ところで、中村氏のように画期的な発明を行った従業員にはどう報いるべきであろうか?

 私は、待遇の飛躍的改善が適切だと考える。さもなければ、他社から高額な報酬(能力の顕在化=市場価格の大幅上昇と捉える)での引き抜きに遭ってしまうからである。

 特許によって企業価値が大幅に上昇した場合、この企業価値の増加は、
(1)企業として、金銭的なリスクを負担
(2)研究開発者による画期的発明
(3)経営者や営業その他の会社の機能を総動員しての売上・利益達成
というプロセスを通じて形成されたものである。したがって、企業価値の向上額(リターン)の分配は、各構成員のリスクの負担度合いそして成果への貢献度合いに応じて、総合的にバランスを勘案しながら行われるべきであろう。優秀な営業マンやインベストメント・バンカー等は高収入を得ているが、これは自ら「失敗すれば明日の糧にも困る」レベルのリスクを取っているからである。

 適切な報酬は、何も金銭だけとは限らない。例えば、ノーベル賞を受賞した島津製作所の田中耕一氏に対して、会社はフェローという名誉職と「自由に研究できる環境」を対価として提供し、田中氏もこれに満足している。
 すなわち、この特許訴訟の問題の本質は、企業として従業員に対してその貢献度に見合った報酬(市場における時価であるが、必ずしも金銭だけとは限らない)を出してその功に報いているかどうかということではないだろうか?企業としての誠実さが求められていると、私は考える。

編集部注:なお、現実に特許の価値を算出する場合には、特許法での「特許の帰属先」が関係するが、本稿では便宜上、割愛している。
《プロフィール》
斎藤忠久(さいとう・ただひさ)
東京外国語大学英米語学科(国際関係専修)卒業後フランス・リヨン大学経済学部留学、シカゴ大学にてMBA(High Honors)修了。
株式会社富士銀行(現在の株式会社みずほフィナンシャルグループ)を経て、株式会社富士ナショナルシティ・コンサルティング(現在のみずほ総合研究所株式会社)に出向、マーケティングおよび戦略コンサルティングに従事。
その後、ナカミチ株式会社にて経営企画、海外営業、営業業務、経理・財務等々の幅広い業務分野を担当、取締役経理部長兼経営企画室長を経て米国持ち株子会社にて副社長兼CFOを歴任。
その後、米国通信系のベンチャー企業であるパケットビデオ社で国際財務担当上級副社長として日本法人の設立・立上、日本法人の代表取締役社長を務めた後、エンターテインメント系コンテンツのベンチャー企業である株式会社アットマークの専務取締役を経て、現在株式会社エムティーアイ(JASDAQ上場)取締役兼執行役員専務コーポレート・サービス本部長。
◆この記事は、「GLOBIS.JP」に2007年8月9日に掲載された記事を、東洋経済オンラインの読者向けに再構成したものです。
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