《財務・会計講座》青色LED訴訟をファイナンス的に審判すると?~特許の価値の算定方法~
2004年1月30日、青色発光ダイオード(以下、LED)の開発者として知られる中村修二・米カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授が、かつて勤務していた日亜化学工業(以下、日亜)に、発明の対価の一部として200億円を求めた訴訟の一審判決が、東京地方裁判所(以下、東京地裁)であった。判決内容は発明の対価を約604億円と認定し、請求通り日亜に200億円の支払いを命ずるという内容であった。
同種の訴訟の判決では、光ディスク関連特許について東京高等裁判所が日立製作所に1億6300万円の支払いを命じる二審判決が、この裁判のまさに前日に下された。そのようなタイミングで出されたこの青色LEDに関する東京地裁の判決は、前日に日立製作所が命じられた支払い額を大きく上回るとともに、史上最高額を一気に更新し、多くの企業に大きな波紋を投げかけた。
■発明当時と製品化時点で特許の現在価値に大きなギャップ
まずは訴訟の経緯を見てみよう。発明が行われた当時、日亜は中村氏に対し報奨金として2万円を支払い、特許権を買い取った。一審判決でも特許権そのものは日亜の所有物と認定されている。
中村氏は社員として会社の設備と資金を使ってこの特許技術を発明した。発明のための投資をしたのは会社、労働力と頭脳を提供したのは中村氏ということになる。しかしながら中村氏は、給与を貰っていた。したがって発明した時点、すなわち特許権がいくらの価値を生むかが不明な時点では、中村氏は給与額が労働に対する妥当な対価であると認識していたと考えられる。さもなければ、中村氏の頭脳に対し、より高給を出してくれる他社に移って研究を続けたはずである。
ところが状況は一変した。特許に基づき実際に製品が開発され販売されることによって、突然、特許の価値(将来生み出されるキャッシュフローの現在価値)が跳ね上がったのだ。中村氏は待遇の改善を会社に要求したが拒否されたため、米国の大学に移った。米国の社会通念からすると、中村氏が当時、日亜から得た報酬は、会社への貢献度と比べると噴飯モノの低さであったことから、中村氏も権利意識に目覚め、会社を懲らしめる意味も含めて訴訟に踏み切ったわけである。
これを受けた東京地裁の判決の要旨は、以下の通りである。
(1)中村氏の特許発明が「青色LEDの製品化を可能にした」
(2)特許権の効力が切れる2010年10月までに日亜が権利を独占することで得る利益を約1208億円と推計
(3)中村氏の貢献度については、「小企業の貧弱な研究環境で、独創的な発想で世界中の研究機関に先んじて産業界待望の世界的発明を成し遂げた全く稀有な事例」として、「貢献度は50%を下回らない」
これらを基に一審判決は、中村氏が受領すべき対価は604億円(1208億円×50%)としており、中村氏からの請求額が200億円とそれを下回ることから、請求額の満額となる200億円の支払いを日亜に課した。
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