《財務・会計講座》青色LED訴訟をファイナンス的に審判すると?~特許の価値の算定方法~
■特許権の時価評価の算出式には業界の情勢に合った数値を使うべき
改めて一審判決の内容を詳しく確かめてみよう。ファイナンスの視点でいくと、判決のロジックの前半について気になる点が大きく2カ所ある。判決のロジック(前半)
(1)特許により競合他社の本件発明特許の実施を禁止していることから日亜で超過売上高が発生した。
(2)本件発明を実施する権利を独占していることから得られる利益額の計算:
(2-1)日亜の売上高推計: 合計1208601百万(1兆2086億)円(*1)
(2-2)超過売上高の発生: 青色LEDは日亜、豊田合成、米国クリー社の3社による寡占市場であり、クリー社と豊田合成に特許権の実施を許諾していれば、売上高の50%はこの2社に帰属していたと想定
(2-2-1)特許権の独占実施権の対価:日亜の売上高の50%×特許権実施料(20%)
(2-2-2)独占の利益(想定特許権実施料)=1208601百万円×50%×20%=120860百万(1208億)円
*1:青色LEDが市場に出始めた1994年から特許の効力が切れる2010年までの日亜の売上高を、将来分も含めて推定・計算し、特許権が設定登録された1997年4月18日現在の価値に割り戻している。なお、各年度の売上高を割り戻す割引率は、民法所定の5%の利子率を採用している。
まず指摘したいのは、売上高の推計の式の(*1)部分である。日亜の将来も含む売上高を1997年4月現在の現在価値に「割り戻して」いることは注目に値するものの、その割引率が問題である。判決の中では、民法所定の5%を適用している。だが本来、この計算式では、このキャッシュフローのリスクの大きさに応じた割引率を適用すべきである。
それではこの「リスクの大きさに応じた割引率」はどのように設定すればよいのか?日亜は非上場であることから株式βは測定不可能である。豊田合成は上場企業ではあるが青色LED以外の売上高も多いことから豊田合成の株式βもそのまま適用するわけにはいかない。
そこで、もう一つの競合であるクリー社の数値を見てみる。同社は米国で上場しておりほぼ青色LED専業で、株式βも入手可能(*2)であることから、クリー社の株式βから算出した割引率を青色LED事業の割引率として使用すればよいであろう。
もう一つ指摘したいのは、そもそも算定対象は売上高ではなく、資産である特許が生み出すフリーキャッシュフロー(*3)がふさわしいという点である。このフリーキャシュフローをクリー社のβから算出した割引率で割り戻した額を、特許権の時価(現在価値)として扱うべきであった。
以上の考え方で試算すると、この判決時点での特許権の時価評価額を、私は約3000億円と推定する。
具体的には、以下のような算出式である。
Σ(日亜のフリーキャッシュフロー)n / (1+クリー社の株式βから算出した青色LED事業割引率)^n
≒300000百万円(3000億円)
*2:YAHOO!Finance、Bloomberg.comなどから入手可能
*3:毎年のフリーキャッシュフローの式は以下で表される。
フリーキャッシュフロー= { 営業利益 × ( 1 - 税率 ) + 減価償却費 - 投資 - △運転資本 }
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