「ホームレス路上訪問活動」がやっていること

新宿の「おっちゃん」たちとの出会いと思い出

おっちゃんたちと出会う中で、ご飯を1人で食べている姿をよく見かける。私も両親が共働きのため、普段は1人でご飯を食べることが多かった。訪問活動を始めるまでは、おっちゃんたちを見かけても何も気にかけなかった。ただ「食べているんだな」と見ていた。食べた後のゴミが気になってしょうがなかった。

その後、田村さんの話を聞いて、誰もいない空間で、毎日、独りなのだと知った。ご飯を食べる時間は、今日あった出来事、それこそご飯のこと、本当に何気ない会話をする時間だ。でも彼らは、本当に1人。炊き出しに行ったとしても、並んでいる間も持ち帰って食べても1人。日本有数の繁華街の新宿で、多くの人が田村さんの前を通り過ぎる。田村さんが暮らす公園からすぐの人気のラーメン屋さんに、若者やラーメンマニアの人がみんな楽しそうに長い列を作る。それを眺める田村さんの横顔には、ふとした時に寂しそうな影が差すことがある。

私がスープの会の活動に参加しているうちに、田村さんは私が記者っぽいことをしていることに徐々に気づいていた。ある日突然、「記者になる人はこれが必要だね」。万年筆を手渡された。どこで買ったのか、あるいは拾ったのか、思いつきでくれたのか、それはわからない。自分と田村さんが、ボランティアをする人とされる人という関係ではなく、何だか、普通と言えるような関係を築くことができたようで嬉しかった。田村さんからもらった軸が太い男性用の万年筆は、私が将来本物のジャーナリストになる時まではもったいなくて使えない。

屋外専用カイロ熱々

「寒いだろ、これやるよ」と差し出された手にはカイロ。真冬の2017年1月。ビル風が強く吹き付ける後楽園駅前。ヒゲがトレードマークの金井さんが、しわくちゃのニヤッとした笑顔で手渡してくれた。普通のカイロよりも高温になるカイロだ。私は貼るカイロを全身につけて完全防備。

金井さんは厚着をしているけど、モコモコ厚着というより山登りの時みたいに薄く暖かくというスタイル。なので、「金井さんにとって、そのカイロは、そう簡単に手放せないものなんじゃないの?」と思った。金井さんは続けて「いいからいいから」と笑いながら言う。もらってしまった。自分も絶対寒いはずなのに。その日は確かに寒かった。でも、どうしてもこのカイロだけは使いたくなかった。

金井さんは月曜日から金曜日、朝7時半から夜8時頃まで、ホームレス支援雑誌を販売している。1日10冊売れればいいほうらしい。彼は、田村さんが暮らす新宿の公園でお隣に住んでいる。土曜日の夜は、ボランティアに参加した学生たちと金井さんとの会話で賑やかだ。毎回、訪問時間の30分ほどを使って話し込んでいる。

その日も金井さんの家の前は笑い声にあふれていた。「いい人がいないんですよ、どうしたら見つかりますか?」。女子学生が金井さんに恋の相談をしていた。「いやあお前まだわけえんだから、おいがんばんなさいよ(笑)」。金井さんはいつも、人生63年分の経験と知識を振り絞って励ましてくれる。お調子者で、おしゃべり好きな金井さん。だから若い学生たちにとって、とっておきの相談相手で人生の先輩なのだ。学校、友達、恋人について相談する学生は多い。ホームレスについて教えてくれるだけでなく、誰にも言えないような悩みもきちんと聴いてくれる。そういう時、彼には決め台詞のようなアドバイスがある。

「困ったり、悩んだりしたら、俺んとこ来い。親でも誰でも説得してやるから。やりたいことできなくて迷ったりしたら俺んとこ来いよ」。しわくちゃの笑顔からいきなり真剣な顔になる。

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