「ホームレス路上訪問活動」がやっていること 新宿の「おっちゃん」たちとの出会いと思い出
すでにお食事が終わっていたら、世間話が始まる。これがスープの会のいつもの風景。スープの会は、路上のおっちゃんと同じ時間を過ごすことを大事にしている。支援というと、炊き出しや物資支援が真っ先に浮かぶだろう。そんな中、手ぶらで訪問をするくらい、おっちゃんとの出会いを大切にしている。
スープの会の「スープ」には諸説あるらしいが、「『スープが冷めない距離にいる』だったかな」と代表の後藤浩二さんが教えてくれた。私はほかの夜回り団体に参加したこともある。でも、おっちゃんたちが「話す」のを待っていてくれるのはスープの会だけだった。
ケーキ
2016年12月。新宿駅周辺はきらびやかなイルミネーションに包まれ、陽気な若者やサラリーマンらがクリスマスを楽しんでいた。その中で光が届かない暗がりでダンボールを敷いて眠っている高齢の男性たち。お味噌汁や飴玉を手渡した。
「金井さん、お味噌汁いかがですか」、「工藤さん、その格好寒くない? 大丈夫?」。クリスマスながら参加者は約20人。普段と変わらず、新宿駅西口から南口を訪ね歩く。ボランティアによく来ている会社員の女性が「いつもお菓子もらっちゃってるから、今日だけはお返ししないとね」。おっちゃんのお家の前に手作りケーキを置いていた。
「バレないようにね、こっそり食べちゃって」。メガネがトレードマークの田村さんが、ショートケーキ、モンブラン、プリンなどが入った白い箱を開けた。よくお菓子を用意して待っている。
彼は新宿駅南口を進んだところにある小さな公園に住んでいる。私が初めて田村さんに会った時、抹茶の入ったほかほかのたい焼きをくれた。
「え、ホームレスの人ってお金ないんじゃないの?」、「ていうかもらっていいの?」。私の頭の中ははてなマークでいっぱいになった。夜回りに参加するボランティアたちは気にせず、田村さんのダンボールの家の前にしゃがんで、楽しそうに話している。私が想像していたのとまったく違う「ホームレス」と呼ばれる人に驚いた。
田村さんからは今までに、ケーキ、たい焼き、カステラなどをいただいた。小さな音で流れるラジオがいいBGMになって、まるでピクニックのような雰囲気。田村さん曰く、食べ物はその日のうちに買ってくるんだそう。
水産高校出身で元イルカの調教師の田村さん。12月のその日は、ショートケーキを片手にイルカや船の話で盛り上がる。普段は捨てられた雑誌を集めて生計を立てている田村さん。収入は多いとは言えない。だから思い切って田村さんに聞いたことがあった。「どうしていつもお菓子をくれるんですか?」。お味噌汁をもらう申し訳なさからきているのか。お金がかかるのに買ってくれるのはなぜなのか。
「みんなで食べるのが嬉しいの。おいしいもん食べて笑顔になって、こっちも嬉しいでしょ。自分も食いたいけど、1人で食ってるのとはまた全然違うからね」。顔をほころばせた。夕食の献立を考えるように、何にしようか考えているのだという。田村さんはみんなでお菓子を食べるのを、家庭で食卓を囲むような感覚でいたのだと初めて知った。
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