デフ五輪陸上金メダルの三枝浩基が目指す夢 険しい道のりを越えてつかんだ世界一の先
正式に竹重コーチに指導者の依頼をしたのは2017年11月だ。その前の約3年間、三枝は神奈川に住み、1人で練習に励んでいた。ケガもあり伸び悩む時期もあった。竹重コーチは、走る際のフォームをつねにチェックして分析をし、三枝にはわからない癖など細かい所までを指摘する。しかも、教わるようになってからケガもしなくなった。
「あの日から私が試合に出る度に会うようになり、通訳だけでなく陸上の指導もしてくれるようになったのです。世界で戦い抜くには、1人だけでは限界があり、選手としてこれほど有難いことはないですね」。竹重コーチは公務員であるため、指導を受けるのは基本的に週1回だが、その練習には充実感を覚えている。
「3年後のデフリンピックで恩返しできたらいいですね」と、三枝は意気込んでいる。3人で連携を組みながら、最高のトレーニングメニューを組み立てて日々の練習に励む。個人でも世界の舞台で表彰台に立つために。
今年からはメルカリ所属のアスリートに
今年2月、三枝はエイベックスを離れ、フリマアプリ「メルカリ」を開発するメルカリとアスリート雇用契約を結ぶこととなった。メルカリには「挑戦し続ける三枝選手の姿勢に共感し、一緒に海外の舞台に挑みたい」という狙いもあった。
今シーズンの大会に向けて三枝は、まず5月26日の大井埠頭で開催される「第15回日本聴覚障害者陸上競技選手権大会」に照準を合わせ、9月末の「堺選手権(大阪)」に出場し、10月中旬の「中部実業団陸上競技選手権大会」にピークに持っていけるように計画をしているという。
人間は年齢を重ねる毎に身体が変化していく。トップアスリートにとって、結果を出しながら選手寿命も延ばしていくには相当な覚悟を持って日々の生活を送らなければならない。
現在の主なトレーニングは、陸上トラックでスパイクを履いてトップスピードで走ることになっている。週3回の練習で距離は60mから100mまで。本数は3本のみだが、最大パワーを使いながら走っているので、これ以上の負荷疲労が蓄積するとケガを引き起こす可能性がある。いかに練習に集中して質を高めるかがカギになっている。
健常者の大会にも出場する中で、三枝はどんな選手を目指しているのだろうか?
三枝は、健常者の大会に出場するときには補聴器を使用し、スターターの音を聞いて走り出している。これに関してはハンデをまったく感じていない。もちろん、ろう者の大会では補聴器の使用は禁止されているため、スタート光刺激システムが採用され、ランプが点灯した瞬間に走り出している。
「競技者としての活躍をして陸上の人気向上に貢献をして、1人でも多くの方に感動を与えることができるような選手になりたいですね。ぜひ競技場に足を運んで、自分のパフォーマンスを見てほしいです」2021年のデフリンピックで個人種目でメダルを獲得することが当面の目標だ。
自分が世界を相手に活躍するアスリートの1人であることに三枝は大きな喜びを感じながら走っている。 その喜びをエネルギーに換えて。
(文中敬称略)
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