「雌伏10年」AIのトップランナーになった男

世界で認められたエンジニア、矢野和男氏

長年取り組んだ半導体研究を離れ、AIやビッグデータへの道へ(写真:エンジニアtype)
モノの付加価値はハードウエアからソフトウエア、データに移行しつつある。一方、日本の製造業においては、高いハードウエア技術が生かされていた事業を縮小する動きもある。そんな中で、新しい分野への転身を模索するハードウエアエンジニアも少なくない。本シリーズでは、ハードとソフト/データの間の壁を乗り越えた先達を紹介する。乗り越えるプロセスは、「華麗な跳躍」とは言いがたいものだろう。爪を立て、時にルートを変えながら登った壁面には、無数の傷痕が残されているはずだ。

「いろいろな説明の仕方はありますが、そうなっちゃったということ。なぜそうなったかというと、社内外、さまざまな分野の人たちと議論したからでしょうね」

本記事は『エンジニアtype』(運営:キャリアデザインセンター)からの提供記事です。元記事はこちら

日立製作所(以下、日立)で研究開発グループ技師長を務める矢野和男氏に、「なぜAIやビッグデータというテーマを選んだのか」を聞くと、そんな答えが返ってきた。矢野氏はいまや、この分野のトップランナーの1人。2014年に上梓した『データの見えざる手』(草思社)では、「幸福」や「運」といった人間の感覚や営みと、データとの意外な関係を明らかにして世に衝撃を与えた。

矢野氏が長年取り組んだ半導体研究を離れ、データというテーマに本格的に関わり始めたのは2000年代前半のこと。経営の方針を受けて、決定的な選択を迫られたからだ。この頃、日本の半導体メーカーは逆風のただ中にあった。2003年に日立の半導体事業は切り出され、三菱電機の同事業と統合されてルネサス テクノロジ(NECエレクトロニクスとの経営統合後、ルネサス エレクトロニクス)が生まれた。

時代の流れとともに、大きなキャリアシフトを余儀なくされた矢野氏。決して平坦ではなかったその歩みを追ってみたい。(以下、敬称略)

20年培ったスキルをいったんリセット

矢野和男は20年にわたり、半導体の研究開発に携わってきた。1993年には、単一電子メモリの室温動作に世界で初めて成功。慣れ親しんだ分野には、気軽に情報交換できる知己が世界中にいる。築いてきた資産や知見も、これからは使えなくなるだろう。新しい分野をゼロから切り拓かなければならない。

「20年間培ったスキルとかポジションといったものを、いったんリセットしなければなりません。残念なことでしたが、見方を変えればチャンスでもあります。正直に言うと、当時は本気でそう思えたわけではありません。でも、チャンスだと思おうとはしました」

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