AIDにおいては「出自を知る権利」についても問題になります。
「出自を知る権利」とは、子どもが自らの遺伝的ルーツ(この場合は精子提供者)を知る権利のことです。日本も批准する「子どもの権利条約」でも、「児童はできる限りその父母を知り、且つその父母によって養育される権利を有する」ということが、うたわれています(第7条)。
しかし実際のところ、「出自を知る権利」はまだ日本ではあまり浸透していません。AIDだけでなく、養子縁組においても「子どもには出自を知らせなくていい(隠したほうがいい)」という昔ながらの考えが少なからず残っているのです。
それでも「一度は会ってみたい」
石塚さん自身は、提供者を知ることにあまり興味がないものの、それでも「一度は会ってみたい」といいます。
「私は『母親と精子で自分が産まれている』というのが、すごく不安定な感じがして、嫌なんです。モノとしての精子ではなく、ちゃんと『人』が介在していたということを実感させてほしい。だから、一度は会ってみたいと思います。
ただ、私はほかの当事者と比べると、そんなに『提供者を知りたい』という情熱はないんですね。一時期は探していたこともあるのですが、どんな人が出てくるかわからないじゃないですか。それに気づいたときに怖くなって、探すのをやめてしまいました」
もし提供者を探すとしても、多くの場合、手掛かりはほとんどありません。最近では“オープンドナー”といって、生まれた子どもが求めた場合に個人情報を開示する前提で精子提供をする人もいますが、数十年前の日本では、そうしたやり方は皆無でした。
またそもそも、親が子どもにAIDで生まれたことを告げていなければ、オープンドナーであろうと、そうでなかろうと、子どもは提供者を探すことすらできません。
残念なことに、日本産科婦人科学会は今でも「提供者のプライバシー保護のため精子提供者は匿名とする(ただし記録は保存)」という見解で、告知を義務としていません。また国において、「出自を知る権利」を守るための法律を制定する動きも現在のところありません。
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