「結婚はもうしない」
河崎環(以下、河崎):昨年の乙武さんの不倫騒動で、私が最も印象的だったのは、男性たちの動揺ぶりでした。健常の男性たちが、「『乙武でさえ』あんなにモテてるのか」と。
そもそもネット論調の中心世代は、実は私たち40歳前後の世代だといわれていますよね。ロスジェネとも呼ばれた、団塊ジュニアから就職氷河期くらいまで。彼らは普通に勤め人、女性は専業主婦だったりもする。私たち世代の「論客」なんて呼ばれている人までもが、批評を隠れみのにして自分たちの鬱屈や嫉妬を、乙武さんをネタにさんざんたたきつけていたのが、本当に興味深かった。それは40代がもともとたたき込まれて育った競争の病理ゆえなのか、いま肉体的にも精神的にも曲がり角を迎えた挫折感ゆえなのか。
この世代は人生の競争に勝つためには、下手をうってはいけないし、しくじってはいけなかった。しくじったやつ、転んだやつは置いていかれたわけですよ。そして、今も誰かが何か失敗したら、それはもう蜜の味です。たたいてたたいて、とにかく蹴落とす。
だからお互いすごく失敗を恐れているわりに、本当はもういっぱいいっぱい。それこそ、イクメンだ女性活躍推進だ、でも長時間労働だブラックだという文脈の中で、「大黒柱もやりながら、イクメンもやれなんて、絶対無理だよ」と。「男として、ここまで頑張ってきて、清廉潔白で、社会的にもドヤ顔できるような肩書なりなんなりを持ちつつ、しかもまっとうに結婚もしつつ、子どもももうけつつ、奥さんも満足させつつ、家事もやりつつ。そんなすべてを俺たちが背負わされてやれるわけないじゃん」って。
中川淳一郎(以下、中川):彼らはまだ頑張ってる、走ってしまっているんだ。
河崎:そう、奥さんにすごい憎まれたりしながら、まだ頑張ってる(笑)。40代やアラフォーのこの病理について、ちょっと話したいんです。
乙武洋匡(以下、乙武):やはり価値観が1つでなければならない、同じ価値観を皆で共有して生きていかなきゃいけない、という呪縛にとらわれてしまっている気はします。いちばんわかりやすいところでいうと、やっぱり結婚というものが、そもそも共有せざるをえない価値観で。
たとえば、今の20代ぐらいの人たちに聞くと、われわれが20代だった頃と比べて、圧倒的に結婚願望が低い。それはなぜかというと、自分のライフプランと照らし合わせて、結婚がはたして最適なのかどうかという、個別化した考えをきちんと持てている。ところが、われわれの世代の多くは、そういった個別化をしてこなかった。結婚というシステムが自分にふさわしいかなんて考える間もなく、結婚というのはするものだ、と。しないと後ろ指さされるものなんだ、と刷り込まれているので、ようやく結婚してスタートラインに立てるみたいな。
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