乙武洋匡「日本には村の掟がまだ残っている」 中川淳一郎と語る競争、結婚、不倫、差別

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中川:そうか。じゃあ不倫も、その延長線にあったんですか。

乙武:それはまったくないです。

河崎:今、私の同級生たちにも、いったん世間的にまっとうな結婚をして子どもも持ったうえでの離婚や再婚が本当にたくさん起きていて。親や先生に教えられたのではなく、自分たちで決める自分たちの姿というものをようやく手に入れ始めたのって、やっぱり40代だなと思ったんです。30代ぐらいまでは、まだまだ世の中が自分たちに期待しているものに応えなきゃいけない。しかも、今までそれなりに応えて結果を出してきたりするとなおさら、期待には応えるものだと信じていた。でも、ひととおりやってみて、全部及第点取って、あらためて「いや、これがやりたかったことだったっけ?」と疑問が湧くんですよね。この40代の挫折っていうのが、私の最近のテーマになっていたりします。

中川:本当、そうなんですよ。

河崎:それが、乙武さんご自身にもあったということですね。タイミング的に、そういうものが自分にふってきた?

乙武:先にそれありき、ではないですよ。本当に身から出たさびによって、自分のせいで家庭を壊してしまった。これは私自身の弱さであり、言い訳できない部分です。そのうえで、いま独り身になった自分が、もう1回結婚する気があるのかと考えたら、今の自分には、もう家庭には向かないな、と。「自分にとって家庭は向かないから壊してしまえ」と考えたわけでは、まったくないです。

中川:今、ご自身が考えてることも、今後変わる可能性もあるわけですよね。

乙武:まあ、先のことなんてわかりませんからね。

中川:乙武さんの親御さんは「自由にやれ」という方々だったのが、『五体不満足』などを読むとわかる。別に、「おまえがこんな離婚して、恥ずかしい」なんて言うような方じゃないですね。

乙武:「反省すべき点は反省したうえで、あなたはあなたの人生を歩みなさい」と。ただ、結婚に関していうと、父への思いが強く影響を及ぼしていることは否めないんですよね。さっき中川さんが、「結婚をして3人の子どもをつくって『どうだ、ちゃんと家庭を持ててるだろう。どや!』という気持ちはなかったのか」とお聞きくださいましたけど、実は世間に対してというよりも、父に対してそれと同種の気持ちを抱いていた部分があるんです。

私が18歳のとき、父ががんであることがわかり、その7年後に他界しました。私は本当に父に愛されて育ってきて、私の支えとなっている自己肯定感というものも父のおかげだと、すごく感謝をしているんですね。だからこそ、父が7年間の闘病を経て、いよいよ死期が近いとわかったとき、間もなく旅立っていくということがわかったときに、なんとか安心して送り出してやりたいという気持ちが強くあったんですね。

中川:そうだったんですね。

乙武:じゃあ、もし自分が手足のない息子を持った父の立場だったときに、息子を残して自分が先に旅立つとき、何が心配だろうと考えました。そこで、自分の頭に浮かんだのは2点あって。1点は、きちんと仕事を持って、飯を食っていけることができるか。それに関しては、すでに『五体不満足』が出て、大学卒業後にスポーツライターという立場でスタートしていたので、まあ、ある程度、安心してくれているんじゃないのかなという思いがあった。

もう1つは、こういう体で生まれてきて、はたして家庭を持てるのかというところ。昭和16年(1941年)生まれの親父からしたら、やっぱり心配に思うんじゃないだろうか。だったら「きちんと結婚したよ、残念ながら孫の顔までは間に合わないまでも、籍を入れて、結婚して、家庭を持ったよ」という姿は見せて送り出してやりたい、という気持ちが頭をもたげてきたんですよね。だから、24歳という、同世代と比べると比較的早い年齢で結婚したということには、そういった、「親父を安心して送り出したい」という気持ちもあったんですよね。小さくはない要因として、確かに、あったんです。

中川: それは、「こうするものだ」と押し付ける世間の風潮とは別次元の、お父さん個人に対する思いという話ですよね。

乙武: そうですね。

「日本における不倫とは、個人と社会との契約不履行」

中川:俺も会社を4年で辞めたんですよ。地元は立川というところで。地元ではいちばんいい学校って立川高校なんですね。で、次にいい学校っていうのは、隣駅の一橋大学。東大は、その次なんですよ。近所で、ついに初めて一橋に合格したと。しかも博報堂に入ったっていうと、もう「中川さん家の淳ちゃんは、なんという優秀なお子さんで。お母さんもお子さんも立派ね」となるわけです。

で、俺は4年で辞めて無職になった。すると親が「家に帰ってくるな」って言ったんです。無職になった姿を近所に見せたくないって。平日の真昼間にふらふらと帰ってくる姿を見られちゃった場合に、「もうご近所さんの期待を全部失うことになるよ」って言うわけですよ。

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