三井住友信託の調査報告書で「論点ずれ」の指摘、インサイダー防止策が焦点なのに社員による「株式売買の自由」を求める提言に

「これでは論点がずれてしまっている」――。
国内信託銀行の最大手、三井住友信託銀行が5月1日に発表した元社員のインサイダー取引に関する「調査報告書」をめぐり、こうした指摘や非難の声が上がっている。
親会社である三井住友トラストグループは2024年11月に、同社の独立社外取締役で元大阪高等検察庁検事長の榊原一夫氏を委員長とする調査委員会を設置。会社の信頼を大きく揺るがしたこの事件を受けて、調査委員会が再発防止策としてどのような提言を行うのかに注目が集まっていた。
3銘柄で2900万円超の利益
三井住友信託銀行の証券代行営業第二部長であった元社員は、3銘柄でインサイダー取引を行っていた。いずれもTOBの未公表情報と知りながら自己名義の証券口座で株式を買い付けていた。
2022年12月から2024年8月にかけて、売買回数は実に56回に及んだ。約3200万円を投じて不正に得た利益は2900万円超に上る。
証券取引等監視委員会は東京地方検察庁にこの3銘柄の取引を告発し、起訴の対象としている。ただ、調査委員会によれば、別のA社株式についてもTOBの未公表情報だと知りながら自己名義で買い付けていた。しかし、そのTOBは実施されず、元社員は82万円の損失を出す結果に。この取引もインサイダー事案に該当する可能性があるという。
元社員はその後、三井住友信託銀行が東京証券取引所の依頼を受けた証券会社に対し、TOBの未公表情報を把握していた人物リストを届け出たことを認識。2024年10月に関係当局への自主申告を決心し、会社にも報告した。同社は11月1日付で元社員を懲戒解雇にしている。
調査委員会はインサイダー取引が発生した原因究明・分析を行った結果、「会社の組織性は認められず、元社員の単独行為」であったと結論。その上で、本件最大の原因は「本人の倫理観の不足」であるとした。
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