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セイコーエプソンの職人が生んだグランドセイコー「雪白」、世界を魅了する名作誕生の舞台裏、長野県塩尻市にある「信州 時の匠工房」に密着

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グランドセイコーが世界で存在感を高めるきっかけとなった「雪白」文字盤を搭載したモデル。この「白」を具現化した中心人物はセイコーエプソンの職人だ(記者撮影)
会社を動かすのは現場のビジネスパーソンだ。人気商品やサービスが生まれた背景、新たな挑戦の狙いとは。本連載では、その仕掛け人を直撃する。

2025年4月、スイス・ジュネーブで開催された世界最大級の高級時計展示会「Watches and Wonders」。パテック フィリップやロレックスなど名門ブランドが並ぶなか、アジアから唯一出展したのが、セイコーウオッチの最高級ブランド「グランドセイコー」だ。

水晶を模したオブジェの中に展示されたのは、最新作「スプリングドライブ U.F.A.」。その幻想的な演出が、多くの来場者の注目を集めた。2010年代から本格的なグローバル展開を進めるグランドセイコーは、世界市場での存在感を着実に高めている。

「Watches and Wonders」のグランドセイコーブースは入場制限を行うほどの盛況ぶり。スプリングドライブの精度を司る水晶をイメージした空間演出が施され、中央には今回の新作を1本展示した(写真提供:セイコーウオッチ)

その代表例とされるのが、2005年に登場した「雪白(ゆきしろ)」文字盤を搭載したモデルだ。繊細な白い文字盤の上を、青い秒針が滑るように動くこの時計は、20年近くの年月を経てもなお高い人気を誇る。

この“白”を具現化した中心人物が、セイコーエプソンで長年文字盤製造に携わってきた秦秀男さん(54)だ。これまでに試作を含め1万本以上の文字盤を手掛け、若手育成にも力を注ぐベテラン職人だ。

「キング・オブ・ホワイト」を超えろ

このモデルの誕生を支えたのが、長野県塩尻市にあるセイコーエプソンの「信州 時の匠工房」。エプソンはプリンターやプロジェクター製品で知られる。そのルーツは1942年に「第二精工舎」(現在のセイコーインスツル)の出資を受けて創業した大和工業に遡る。セイコーの協力会社として発足し、現在でもクオーツ式時計やスプリングドライブといった時計の製造を担う。

1999年、エプソンは「スプリングドライブ」と呼ばれる独自のムーブメントを発表。これは、機械式時計の駆動にクオーツの制御を融合させた独自機構で、滑らかな秒針の動き(スイープ運針)が注目を集めた。そして「スプリングドライブ」にふさわしい“顔”としての文字盤の開発もまた、大きな挑戦だった。

グランドセイコーには「厚銀放射ダイヤル」と呼ばれる白文字盤があり、肌なじみの良い上品な色味から「キング・オブ・ホワイト」とも称されていた。だが、2003年ごろ、「新しい白を作りたい」という声がセイコー社内で上がった。

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