
「自販機本来の価値とは何か。これをこの3年間ずっと、チームメンバーで議論しながら……えー、開発してきました……。(しばらく沈黙)失礼しました」
2025年3月下旬に行われた、サントリーの自販機キャッシュレス決済サービス「ジハンピ」の記者発表会。開発担当者として壇上に立ったサントリービバレッジソリューションの井上尊之さんは言葉を詰まらせ、目に涙を浮かべた。チーム全員が本当に大変な思いをした、そんな思い出が頭をよぎったという。
一般的に、自販機の決済端末は機械メーカーが開発することが多い。しかし、ジハンピは井上さん率いるサントリー社員5人のコアメンバーが自ら仕様を策定し、設計する異例のプロジェクトだった。前代未聞の試みに挑戦した背景には、自販機への強い“愛”と業界に対する危機感があった。
「こんなの自販機じゃない」
入社後約5年間の量販営業を経て、2013年から一貫して自販機事業に関わってきた井上さん。入社前から自販機が特別に好きだったわけではなかったが、仕事で触れるうちにその奥深さにのめり込んでいき、今では“自販機大好き、自販機LOVER”を自称するほどだ。
ただ、近年は自販機の不便さや、それによる業界の縮小を懸念していた。
「ああ今、現金持ってないから無理だ」「PayPayで支払うには、どうしたらいいの?」。最近、自販機の前でよく聞こえてくるのは、支払いに戸惑う人々のそんな声。ただ喉が乾いて飲み物を買いたいだけなのに、支払いができずに困り果て、しまいには立ち去ってしまう。
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