「まさか」──。組織・人事のコンサルティング会社、リンクアンドモチベーション(L&M)の渡部愛理さん(32歳)は昨年12月、上司から告げられた新たな役割に耳を疑った。
渡部さんは大手企業向けコンサルの事業部で、受注管理などのバックヤード業務を担当していた。2023年の中途入社であり、前職は紙媒体の広告校閲。「紙の申し子」と自称するのも大げさではなく、エクセルの足し算関数も経験したことがないほどの「IT音痴」だった。
L&M入社後に、必要に駆られてパソコンの専門学校に通い、ある程度のITスキルをなんとか身につけていたものの、まだ人並み程度。そんな渡部さんに言い渡された新しい役割は「DX推進者」だった。
事業部の社員がAIを使いこなすためのプロジェクトの現場リーダーに抜擢されたのだ。「なぜ私なのだろうか。本当に私にできるのか」。渡部さんは戸惑いを隠せなかった。
全社「AI活用人材化」プロジェクトの始動
L&Mは2025年1月、同年9月末までに主力のコンサル・クラウド事業において、全社員の「AI活用人材化」を目指すことを公表した。AI人材とは、1日1回以上AIを業務で活用する者を指す。
同社は2023年ごろからAI活用によるDX推進を本格化させ、2024年には特定の部署に限定して生成AIによる業務改革を推進。そして今年に入り、ついに主力部隊の全社員がAIを使えるようになるプロジェクトを始動させたのである。
AI活用人材化プロジェクトの統括を担うエンジニアの河野智則さん(42歳)は2023年ごろに、自社開発したAIツールを活用した業務変革を命じられた。
しかし、いきなり大きな壁にぶつかった。全社での生成AI研修を実施したものの、日常的に利用するのは一部の社員だけで、活用率は上がらなかった。局所的に利用されることにとどまり、習慣化せず、組織に定着しなかったのである。
「エンジニアチームは現場にどのような業務があり、それらの業務がどのように流れているのかを理解できていなかった。逆に現場の社員は、AIで何ができるのかをわかっていない状態だった」と、河野さんは当時を振り返る。
現場とのボタンの掛け違いを是正しようと、河野さんは2024年1月に戦略を変更した。「いきなり全社展開を目指すのではなく、小さな成功をつくろう」と考えたのだ。
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