父親は誰?「AID」で生まれた38歳女性の叫び 自分は「後ろめたい技術」で生まれたのか

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このように不妊治療の技術だけが進む現状について、石塚さんは「方向が間違っている」と感じています。

「不妊のいちばんのつらさって、本当は社会的なつらさだと思うんです。特に、母が私を生んだ30~40年前は、『子どもが産めないこと=女の人の責任』とされていました。当時は男性側にも不妊の原因があることはほとんど知られていませんでしたし。

『家を守る』という意識もまだ強かったですから、うちの母親は“長男の嫁”として、子どもができないことで相当肩身の狭い思いをしたのではないかと思います。だから母がAIDのことを私に教えなかったのも仕方ないのかな、と思うところもなくはない。

もっと社会全体で議論したほうがいい

でも、そこでAIDを使って子どもを産んでも、子どもを持てない女性たちが抱える根本的なつらさは解消されないと思うんですよ。不妊という社会的なつらさを、AIDという医療によって解決しようとしているところがあると思いますが、それはおかしい。生殖技術が“ふつうの家族”をつくるために使われている気がします」

少々補足すると、今の社会では「お父さん・お母さん・血のつながった子ども」こそが「ふつうの家族」と認識されており、人々はその「ふつうの家族」を実現することを、人生の目標のようにとらえがちです。

もちろん純粋に子どもを望み、その手段としてAIDを選択する人も多いでしょう。でも、自分の意思というより「子どもを持つべき」という周囲の空気を受けて、「ふつうの家族」を装うための手段としてAIDが使われてしまっている場合もあるのではないか、と石塚さんは指摘します。確かに、それはうなずけます。

「だから本当は、社会を変えることが必要だと思うんです。いまは、『子どもがいないとダメ』と感じさせる社会に収まるために、医療でサポートする、みたいな面もあると感じますが、本当はそうではなく、この息苦しい社会を変えるほうに、エネルギーを注いだほうがいい。

社会全体で、そういうことを一回ちゃんと議論したらいいと思うんです。
この技術を使うのはどうなのか。家族ってどういうものなのか、血縁なのか、それとも養子や子どもがいないのもありなのか、シングルや、同性カップル、AIDもアリなのか、とかね。

それを話し合って、『家族は形じゃない』という方向性を社会に浸透させたうえでなら、ちゃんと技術を認める法律も作ればいいし、いっそ国が本腰を入れて精子バンクをつくるくらいのことまでしたほうがいい。根本的な議論を避け、目先の技術についてだけ議論している現状が、よくないと思うんです」

筆者はこれまで何度か石塚さんのお話を聞かせてもらってきたのですが、「みんなで一度、ちゃんと議論しよう」というところに、彼女のいちばん強いエネルギーを感じます。

「意見が分かれる話だから」といって、そのまま野放しにするのでなく、その技術の是非をみんなで話し合い、使うなら使う、使わないなら使わないと方針を決めたうえでルール(法律等)を作り、それに則っていくこと。

それをしないかぎり、この技術で生まれてくる子どもたちをはじめ、不妊治療の当事者みんなが本当の意味で幸せになることは、できないのではないでしょうか。

本連載では、いろいろな環境で育った子どもの立場の方のお話をお待ちしております。詳細は個別に取材させていただきますので、こちらのフォームよりご連絡ください。
大塚 玲子 ノンフィクションライター

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おおつか れいこ / Reiko Otsuka

主なテーマは「いろんな形の家族」と「PTA(学校と保護者)」。著書は当連載「おとなたちには、わからない。」を元にまとめた『ルポ 定形外家族』(SB新書)のほか、『PTAでもPTAでなくてもいいんだけど、保護者と学校がこれから何をしたらいいか考えた』(教育開発研究所)『さよなら、理不尽PTA!』(辰巳出版)『オトナ婚です、わたしたち』(太郎次郎社エディタス)『PTAをけっこうラクにたのしくする本』(同)など。テレビ、ラジオ出演、講演多数。HP

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