福岡の難病男性が「人とITの力」で見つけた夢 「原発性側索硬化症」との闘いを支えるもの
「実は、病名がはっきりしないと電動車いすの助成を受けられないので、僕から医師に相談して、ようやく病名がついたというのが実情です。とはいえ、難病にかかっていると判明して、ショックで不安が募りました」
公的な手当や保険だけでは、家族で生活できる水準にはほど遠い。体が動かなくてもIT系の仕事ならできると考えて、障害者の就労支援学校へ見学に行ったが、「実際に就職した人はほとんどいないという現実の厳しさに愕然とした」と明かす。
「スタートアップカフェ」での出会いが転機に
どんどん落ち込む落水さんを心配した双子の兄が、2014年に福岡市が開設した「スタートアップカフェ」に連れ出してくれた。スタートアップカフェは、起業した人や起業を目指す人たちの交流の場になっており、そこに集まる人との出会いが転機となった。
「いろんな人と知り合いになった中でも恩人といえるのが、ITの力でいろんな人をサポートしようと活動する中村良さん(現在は沖縄のスタートアップカフェ「STARTUP CAFE KOZA」代表)。大分で障害者の仕事に関するフォーラムがあるときに、中村さんが僕の家まで迎えに来て車で連れて行ってくれて。車中で話をするうちに、自分の考えが大きく変わったんです」
運転しながら中村さんは、ITの可能性について話してくれた。「これからITで解決できることはたくさんあると教えてくれました。寝たきりになっても視線で入力できるし、3Dプリンターで身体的に困っている人に補装具を作るビジネスもできる。それに『たとえ落水くんができなくても、まわりのできる人にやってもらえばいい。IT分野なら僕がいるし、大丈夫!』と明るく励ましてくれた。同じ志の人や応援してくれる人が増えれば、何でもできる。そのためには、自分から動かなきゃとスイッチが入りました」
前向きになった落水さんは去年2月にブログを始め、自らの思いや情報を発信するように。さらに外出して人と会うためには、自分の足となる電動車いすが必要だ。だが、簡単に買える金額ではなく、行政の窓口に難病などで移動が難しい人向けの「補装具費」の支給を申請した。必要な書類をそろえるのは大変だったが、ブログなどを通して状況を知った専門家からアドバイスも受け、とうとう半年後に電動車いすを手に入れた。
「これは、ベンチャー企業のWHILL(ウィル)が開発した電動車いすなんです。まず見た目が気に入ったし、マンションの玄関のような狭いスペースでターンできて、7.5センチの段差を越えられる。機能性が高いので、これがあれば1人で外出できると思い選びました」
電動車いすの入手に際しては、サッカーの大久保嘉人選手(FC東京)の応援が大きな後押しとなった。冒頭で述べたように、大久保選手がロスタイムで決勝ゴールを決めた直後、「落水洋介負けるな」と書かれたTシャツをピッチで掲げるパフォーマンスをしてくれたことで、多くの人が落水さんのことを知り、支援してくれたからだ。
「大久保とは、市の小学生選抜チームで一緒にプレーしましたが、その後は連絡を取り合ってなかった。でも、僕が1度も話したことのない高校の同級生が僕の現状を知り、何かできないかと友達に相談してくれて、その知人の知人の……というように話が広がり、やがて大久保まで伝わったそうです。そして、彼が僕のブログを読んで連絡をくれました。大久保はLINEで『オレが電動車いすを買う』とずっと言ってくれて、ありがたかった」
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