福岡の難病男性が「人とITの力」で見つけた夢

「原発性側索硬化症」との闘いを支えるもの

しかし、落水さんは、自力で電動車いすを手に入れることで自信がつくし、同じ状況で悩む人の前例になりたいという気持ちから、「自分でなんとかする」と断った。

「『買う』『買わなくていいから』の押し問答を100回くらいしたと思います(笑)。大久保は代わりに、自分が試合でゴールを決めたとき、応援メッセージを送ると提案してくれたんです」

落水さんはそれまで、病気のことをあまり周囲に話していなかった。「もし自分が健康なままだとして、誰かにPLSだと打ち明けられたら、相手にどう声をかけたらいいかわからない。まわりの人を戸惑わせたくない」という配慮からだ。だが、大久保選手のパフォーマンスで状況が一変し、驚くほどの電話やメールが寄せられるようになった。

友人やサッカーファンから寄せられた支援

「学生時代の友達やサッカーファン、まったく面識のない人にも『頑張れよ』『ブログ見たよ』『オレも頑張らんといけんわ』と連絡をもらったり、20年くらい話してない友人がいきなり家を訪ねてきてくれたことも。そして、僕の知らないところでいろんな人が募金活動をしてくれて、最終的には約120万円の支援をいただきました。電動車いすは自分の力で手に入れようと思っていたけど、金銭的に苦しかったので、本当にありがたかったですね」

電動車いすのおかげで、自力で外出できるようになり、意欲的に活動を続けている。そのひとつは、ユニバーサルデザインを広めるベンチャー企業・ミライロが企業向けに行う「ユニバーサルマナー」研修の講師だ。

「障害者や病気の方、あるいは高齢者にどう接したらいいのか、マナーや適切な方法をお伝えする研修です。多様な状況の人に自然と歩み寄れるようになれば、垣根がなくなり、誰もが生きやすい社会になる。僕にとってやりがいのある仕事です」

ボランティアの講演や企業の研修などに参加している(落水さん提供)

一方で、ボランティア活動にも積極的だ。たとえば、小中学校や大学のキャリア教育として、社会人が自分の仕事や思いを伝える授業にもよく参加している。完全ボランティアだが、「未来を担う子どもたちに話をする機会をもらい、居場所もできた」としみじみ話す。キャリア教育の授業では、おおよそこんな話をするそうだ。

「僕は病気で、手足がどんどん動かなくなり、しゃべれなくなり、数年後には寝たきりになる。でも、だからこそ当たり前のことに感謝できるようになった。今はとても幸せなんだ。僕には夢がある。寝たきりになってもたくさん仕事をして、みんなに喜んでもらうという夢がある。みんなもいろんなことに感謝しながら、たくさんの夢を見つけて、楽しい人生を送ってほしい」

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