7000通りの仕様がつくれる国産腕時計の秘密 月産1万台でも追いつかない「Knot」の正体

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――相反するふたつの希望を、どのように実現させたのでしょう。

遠藤氏:腕時計に限らず、価格が高くなる理由のひとつに、中間流通の存在があります。製造から販売まで、部品製造工場や組立工場、メーカーに小売店など、たくさんの流通過程が存在します。海外製の場合、これにブランドのライセンス料や輸入代理店の利益分が加わってきますが、我々のような国産ブランドなら、そうした中間流通を省くことで価格を安く抑えることができると考えたんです。問題は生産体制の確保でした。おりしも、2020年の東京オリンピック招致が決定したころで、政府も「クールジャパン」の大号令。今まで以上に国産製品に目が向けられることになりましたが、私たちのような新参者には、その追い風も吹きませんでした。

それどころか逆風で、大手国内メーカーが再び国産ラインの製造アップに注力している時期に、低価格でいいものを目指す私たちが参入するのは至難の業でした。ただ、国内大手メーカーが長らく海外生産に注力した結果、かつて月産100万単位の生産体制を誇った国内の腕時計製造業は、ほぼ壊滅状態という状況も同時にありました。私たちはそこに活路を見いだし、そうした技術や生産設備は残っているが事業としてはやめてしまった工場を一軒一軒訪ね歩き、国産ブランドの復活と、腕時計という装飾文化への「夢」を訴え、部品の製造を再開してもらいました。

こうして私たちの夢に賛同してくれる多くのクリエイターや国内製造メーカーの協力を得て、Knotはようやく動き出すことができました。一世紀に渡り日本の時計業界を牽引してきたSEIKOにおいて、Grand Seikoの再生や機械式時計の復活など、数多くの名作を商品企画の責任者として世に送り出した沼尾保秀氏をプロダクトアドバイザーに招聘(しょうへい)し、「日本製で高品質、気軽に着せ替えもできる価格帯の腕時計」をコンセプトに掲げました。

最初は購入希望者をクラウドファンディングで募ったのですが、結果は予定を大幅に上回る資金が集まり、初期出荷分は即完売というスタートを切ることができました。この時も、いかに私たちが時計を愛しているか、「ストーリー」を知っていただくことを念頭に進めました。

――そうして、ようやく「夢」が実現しました。

遠藤氏:実現しても、すぐに軌道には乗りませんでした。市場の反応に手応えを感じ、すぐに次の生産に進むための準備に取りかかったところで、生産を請け負ってくれていたパートナー工場から、「やっぱりKnotさんのところのもの、つくれないよ」とまさかのストップ。そうしたハプニングは、その後、何度も続くことになるのですが、そのたびに立ち止まり、なにか方策はないか試行錯誤を重ねていましたね。

「もうダメかもしれない」と、一瞬めげそうになるのですが、そういう時に幸運にも私たちの「夢」に賛同してくれた人たちから、長年時計業界にいた自分でも知らなかった工場を紹介してもらったり、想いを受け入れてくださった製造業者さんたちからご協力をいただいたりと、助けてくださる方々が現れてくれました。そうやって徐々に生産体制を確立して今に至りますが、Knotを通してやりたいこと、お届けしたいことはまだまだこれからといった感じです。

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