シチズンの「最薄腕時計」は、なぜウケたのか 最大の見本市で、「2.98ミリ」に世界が驚いた
「これでは2016年3月のバーゼルワールドに出せない」――。2015年の秋、シチズン時計の今村和也は真っ青になった。バーゼルワールドはスイス・バーゼルで開催され、1500もの時計メーカーが出展する世界最大の時計の見本市だ。そこでシチズンはソーラー(光発電)時計40周年を記念して、ケースの厚みが3ミリを切る極薄モデル「エコドライブ・ワン」を出展しようとしていた。これはソーラー時計「世界最薄」への挑戦でもあり、今村はその要となるムーブメント(動力部分)の開発を任された。
見本の部品が試作でほとんど割れた
しかしいざ3ミリ未満を実現しようとすると、ムーブメントを薄くするハードルが高い。今村が青くなったのは、その一部である磁石と歯車を組み合わせたローターという部品の見本が届いたときだ。あまりの薄さゆえに従来品より加工が格段に難しく、見本として100個を組み立てた時点ですぐに半分以上が割れ、次の日には残りの半分も割れた。最終的に残ったのはたった数個だったという。
なぜはこんなにも薄い時計を製造しようとしたのか。プロジェクトは、2014年の夏、戸倉敏夫社長の「薄いモノを作ろう」という一声がきっかけとなって始まった。スマートウォッチなど新しい時計が広まる中で、時計の本質である正確さや美しさを追求することがその目的だ。
初期の開発チームは、今村が所属するムーブメントの設計部門に加え、回路やモーター、外装などから集結した10名超と小ぶりな陣容だった。究極の薄さを追求するものの、搭載する機能は絞られているため、GPS搭載などの多機能時計と比べると人員は少なかった。戸倉社長は檄を飛ばすが、「要求レベルがあまりにも高すぎる」と、技術陣は戸惑った。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら