
「運用の効率性や確からしさは非常に大きく改善している。(月面着陸への再挑戦を)自信を持って迎えられる」
月面輸送サービスの実現をめざす宇宙ベンチャー、ispace(アイスペース)の袴田武史CEO(最高経営責任者)は「ミッション2」について、3月4日の中間報告会でそう手応えを語った。1月15日に打ち上げた月着陸船(ランダー)は、順調に航行しているという。
ispaceが「ミッション1」で初めて月面着陸に挑んだのは2023年4月26日のこと、東京証券取引所グロース市場への上場から2週間後だった。だが、ランダーの高度を測定するソフトウェアの問題で着陸は失敗に終わった。
リベンジを期す「2」の月面着陸は6月6日を予定している。成功すれば、アジアの民間企業では初。世界でも民間企業の成功はまだアメリカの2社(インテュイティブ・マシーンズとファイアフライ・エアロスペース)のみだ。
「1」の月面着陸の挑戦はニュースで大きく報じられ、失敗がわかると岸田文雄首相(当時)がすぐさま「これからも応援する」と激励のメッセージを送った。「2」の再挑戦も高い注目を集めそうだ。
では、「2」の成否はispaceの経営にとっていったい、どのような意味を持つのか。
「1」は失敗がむしろ業績を底上げ
実は「1」では失敗したことが当該年度(2024年3月期)の業績にはむしろプラスに働いた。背景には月面輸送というビジネスゆえの顧客との契約とユニークな保険の存在がある。
ミッションの主な収益モデルは、顧客とペイロード(荷物)の月への輸送契約を結び、輸送や付随する役務などの対価を得るというもの。ただし、月への輸送は成功を確約できるような段階ではないため、原則、成否による返金義務を負わない契約がほとんどだ。「1」ではペイロードの契約総額約1000万ドル(当時のレートで13億円強)のうち、失敗したことで減収となったのは約1億円にとどまった。
一方、ispaceは三井住友海上火災保険と「予定していた月面航行や着陸が達成できない場合」に保険料を受け取れる「月保険」を結んでいた。そのため2023年8月18日、月面着陸失敗を受けた38億円弱の保険金を特別利益として計上することができた。
約1億円の減収と38億円弱の保険金収入で差し引きの約37億円分の利益改善効果があったわけだ(ispaceはまだ赤字なので損失減少効果)。
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