月面着陸に失敗しても減収影響は約1億円しかないことがあらかじめわかっていたのに、なぜ38億円弱もの保険契約を結んだのか。それは、月保険が事業そのものの損失を補償するためではなく、「企業の継続性」を支える目的で組成されたものだからだ。
本格的な商業化の前段階にあるispaceでは、コスト先行の状況が続く。事業収益だけで運転資金を賄えず、資金調達は株式市場や借り入れに頼らざるをえない。「1」で月面着陸に失敗すれば、株価が急落し増資による資金調達力が低下することが予想されていた。実際、株価は月面着陸に挑戦する直前は1990円だったが、失敗を受けて2日後に1190円へと4割も下落した。
後続ミッションの受注への影響も懸念材料だった。研究開発段階と位置づける「1」「2」と比べて、商業段階に位置付ける「ミッション3」以降はペイロードの搭載可能重量が大きく増え、契約総額は数倍になる。月面着陸に成功すれば、後続ミッションの受注獲得に弾みとなる反面、失敗すれば逆風になる可能性があった。
あくまで形式上は、月保険はランダーが消失した際の資産価値を補償する目的で組まれたもよう。だが、実質的には失敗した場合の備えとしてキャッシュを手当てするためのものだったようだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら