7000通りの仕様がつくれる国産腕時計の秘密 月産1万台でも追いつかない「Knot」の正体

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まわりを見渡すと、腕時計を取り巻く環境も大きく変化していて、腕時計はスマートフォンにとって替わられる時代。長年、商品として扱ってきた腕時計が、もはやスーツやネクタイ、服やシャツのような個性を表す道具として見られなくなってしまうのではないか、愛する腕時計文化が失われてしまうのではないか、と大きな危機を感じたんです。

「単なる時間を見るだけの道具ではない、「夢」のある時計を、今度は自分たちで作りたい」「ヒット商品を見つけては売るのではなく、「今日の一日を積み上げる一生の仕事がしたい」……。考えた末に辿りついたのが、国産の腕時計ブランド、「Knot」の構想でした。この時に、私の仕事における立ち位置は「バイヤー」から「メーカー」へと、シフトしたんです。

腕時計の愛情からはじまった「Knot」の挑戦

――「夢」のある事業を、今度はみずから立ち上げた腕時計ブランドで実現したい、と。

遠藤氏:ファッションには、衣服という機能としての役割以外にも、ライフスタイルを豊かにする魅力がありますが、人に見られる事が多い腕時計にも、同じように時刻を確認する道具だけではない、身につける人の個性を表現する魅力があると思っています。シャツやネクタイをコーディネートするように、腕時計も「リストウェア」として、ライフスタイルやその日の気分に合わせて選べたら、もっと楽しいものになるはず。

また、進学や就職など、人生の大きな節目に腕時計を送ったり、プレゼントされたりと、腕時計の需要は完全になくなったわけではなく、若い人たちの腕時計に対するイメージも、そんなに悪いものでもありませんでした。ただ、その価格帯でいいものが、なかなかない。リクルートスタイルの相場が5万円と言われる中で、腕時計に割ける予算はよくて、2万円。よほど腕時計が好きでもない限り、それ以上の金額は出せないという市場の印象を感じました。

特に男性にとっての腕時計は、ビジネスで唯一身につけることが許されたアクセサリーであり、限られた範囲でパーソナリティを表現する重要なアイテムだけに、選ぶのが難しい。ビジネスウォッチは金属製のベルトがほとんどで、革ベルトは黒か茶色ぐらいしか用意されていませんでしたし、いざベルトを買い換えようと思っても専用工具が必要だったり、それ以前にベルトだけで1万円近くするものも多かったりと、気軽に買い換えることも難しい。一方で、ベルトを自分の好みやファッションにあったものに付け替えて腕元を演出したいと思っているビジネスパーソンの需要は確実に感じていました。

「誰もが気軽に身につけられる、国産の腕時計を作れないか」。これは、国内大手メーカーが次々と高機能な腕時計の開発に注力し、腕時計自体の高価格化が進む中にあって、相反する希望でしたが、「夢」のある腕時計に、価格も、品質も妥協はできなかったんです。

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