7000通りの仕様がつくれる国産腕時計の秘密

月産1万台でも追いつかない「Knot」の正体

――腕時計業界に本格的に参入するようになったのは。

遠藤氏:バイヤーの仕事で訪れた、時計の見本市で有名な、スイスの「バーゼルフェア」で出会った腕時計がきっかけでした。高級時計がずらりと並ぶ中に、比較的価格も安く、デザイン性に優れた腕時計、それがデンマーク製のSKAGEN(スカーゲン)だったんです。この時はまだ、世界的に有名なブランドというわけではなかったのですが、今まで扱ってきた時計とはまったく違う価格とデザイン性に、私の中のバイヤーとしての勘にピンと来たんです。「これはいける」と。

帰国後、日本人に合わせた特注の“Jモデル”として展開したSKAGENの腕時計は、売れ行きも絶好調。この結果に、手応えを感じ、本格的に腕時計業界でやっていくことを考えたんです。以前手がけたLUMINOXのブームから時も経っていて、かつ業界の難しさはわかっていたつもりでしたから、正直迷いはありました。けれど、それ以上にSKAGENには時計としてもビジネスとしての将来性にも大きな魅力を感じ、同社の日本代理店として本格的に腕時計ビジネスに参入することを決めたんです。

SKAGENの魅力であった「デザイン性と低価格」は、幅広い年齢層の支持を獲得し、日本での販売開始7年目には1年間で13万本、年間数十億円ものビジネスに発展するまでに。「北欧ウォッチ」というジャンルが確立され、直営店を7~8店舗運営し、自分の仕事も腕時計がメインになっていましたね。

一夜にして失った数十億円規模の市場

遠藤氏:腕時計業界で順調にビジネスが進んでいたある日、デンマーク大使館から突然、「SKAGEN本社が海外の大手企業に買収されてしまった」という連絡を受けました。本社が買収されてしまえば、自分たちは数十億円規模の販売権を失ってしまう……。会社の主力事業が、一夜にしてなくなってしまう現実を目の前にどうしたらいいのか、いつもは楽天的な自分も、この時ばかりは茫然としてしまいましたね。

――思わぬ落とし穴が待っていました。

遠藤氏:とはいえ、会社存続のためには、いつまでも穴にはまったままでいるわけにはいかなかったので、他の腕時計ブランドを開発しながら、なんとかしのぎを削っていました。このことは、順風満帆に思えた中での手痛い出来事でしたが、自分がずっとやってきた仕事を振り返るいい機会にもなりました。今まで熱意と愛情を持って売ってきた商品が、突然不可抗力で売ることができなくなってしまう。「このまま、作られた商品をヒットさせる仕事を続けていていいのだろうか」と考えるようになったんです。

働き始めたころは、自立した大人像へのあこがれから、それだけで一所懸命に働くことができたものの、ある程度のビジネス上の実績も積み上げた中で、果たしてヒットを連発させることが、自分が目指す仕事なのか。経営者には、ただビジネスを成功させるだけでなく、そこへ導く「夢」を語れなければいけないのではないだろうか。果たして自分の仕事には、その「夢」はあるのか……。

とはいえ、長年携わっていた腕時計という商品以上に魅力あるものも思い浮かびませんでした。15年の間に、腕時計に対する愛情が生まれていたんです。腕時計からは、離れられない。

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