高級ブランドが「オタク」を無視できない理由

時計メーカーがその価値に気づき始めた

高級時計ブランドと時計オタク(Illustration:Osushi Muroki)

業界の中でこれまで日陰の存在だった時計オタクだが、卓越した知識を持つ彼らを高級時計ブランドが注目しはじめたという。

時計オタクの時代、到来?

当記事は「GQ JAPAN」(コンデナスト・ジャパン)の提供記事です

筆者は表向き、時計雑誌の編集長を務めている。ただそれは表向きであって、今も昔も単なる時計オタクでしかない。時計というのはオタクから見れば純粋にオタクな世界だが、関わる多くの人にとってはラグジュアリーの世界である。ゆえに筆者は、仕事をはじめた頃、あちこちで文句を言われたものだ。曰く「その服装はいかがなものか」、曰く「その服装ではイベントに出られません」、といった具合だ。

たしかジャガー・ルクルトだったと思うが、VIP向けのイベントに呼ばれて、筆者はネルシャツを着ていった。入り口で止められて、「ジャケットぐらいは着てもらわないと困ります」と言われ、そこで泣く泣く、ビームスだかユナイテッドアローズだかでジャケットを買った。6万円は払ったはずだ。だが、酔ってなくした。某ブランドはもっと酷で、「ジーパンをやめないと出禁です」と言われた。結局、その会社のイベントのみ、ジーパンをはかなくなった。

先日、あるお偉いさんと服装の話になった。表向き相当マトモだが、裏の彼はただのオタクである。彼は「オタクの服装が残念なのは、お金の使い先のポートフォリオが常人と違うだけ」と語っていた。MBAを取るような人間は物言いも機知に富んでいると思ったものだが、彼の服装は、筆者と似たり寄ったりだ。もっともこれは、時計を好む多くのオタクも同様である。筆者は彼の物言いを転用したい。私たちはセンスがないのではなく、ポートフォリオが違うのだと。

某弁護士は、あるメーカーの限定版のコレクターで、「市場にある在庫はすべて買いたい」と言ったほどの人物である。収入は桁外れだが、服装の残念さ加減と言えば、ちょっと比類ない。かつて、その服装で某高級時計店に出かけ、けんもほろろに扱われたという経験の持ち主だ。腕に巻かれていたA.ランゲ&ゾーネを見せれば、店員の態度も変わっただろうに。

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