トランプ相場の「賞味期限」は1月まで続くか 株価上昇が覆い隠す「波乱の兆し」とは

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米国長期金利の急騰によって、2016年以降に債券運用を手掛けてきた投資家の多くが、巨額の含み損を抱えたり、運用リスク回避のため損失の計上を迫られたりしています。債券市場では金利の上昇により9000億ドル(約103兆円)の価値が失われており、その規模は優に1兆ドルを超える規模にまで膨らむだろうといわれています。株式市場が好調な裏では、波乱の兆しが見過ごされているのです。

当然のことながら、トランプ氏には長期金利の上昇を放置できない事情があります。企業や家計の借入れ負担が増加して投資や消費に悪影響が及ぶだけでなく、ドル高により米国の輸出が下押しされる事態が避けられなくなるからです。米国の主要企業500社の純利益は2016年7-9月期に5四半期ぶりにプラス(4%増)に転じたものの、次の10-12月期や2017年1-3月期は伸び悩みや減益に陥る可能性が高まっているのです。

ドル高の影響では、とりわけ米国製造業の業績悪化につながってしまうことが懸念されています。トランプの経済政策は、製造業が衰退した地域の雇用創出を重視していますが、ドル高の進行を許容すれば、製造業の雇用が増えないばかりか、現在の賃金水準の維持すら難しくなってきてしまいます。要するに、製造業労働者の支持を失わないためにも、どこかでドル安政策を取り入れざるを得ないというわけです。

その意味では、「巨額インフラ投資」や「大型減税」は「長期金利の上昇→ドル高」という経路をたどるので、製造業を守る「ドル安政策」とは相容れない政策といえます。次期政権はこのジレンマを解決するために、共和党と協議しながら落としどころを探っていくしかないでしょう。

ドル高の問題は、米国内にとどまりません。歴史をひもとくと、1980年代前半にドルが当時の主要通貨に対して上昇し続けたことで、メキシコをはじめ中南米の国々がドル建て債務を返済できなくなる経済危機が起こっています。米国の大手銀行は巨額の不良債権を抱え、中小の銀行では破綻が相次いだのです。現在は当時と比べて新興国・途上国は多くの外貨準備を持っているので、ドル高によってすぐに危機が起こるというわけではありませんが、新興国の経済失速につながる可能性は高いといえそうです。

FRBが量的緩和(QE1~3)を行っていた頃、新興国の銀行はドルを低利で調達し、国内の貸し出しを膨らませていきました。新興国では信用創造が起こり、借金経済の良い面がクローズアップされ、経済成長がカサ上げされていたのです。このままドル高が進行すれば、そのような好循環を逆回転させることは避けられないでしょう。企業は債務の返済負担が重くなり、人件費の伸びを抑制させようとしますし、家計は消費を抑えるようになってしまうからです。

株高の裏側にヘッジファンドの大ばくち

少し長い目で見れば、そのような帰結が導かれるのは当然と思われるのですが、ウォール街のヘッジファンドは「インフレが起こり、米国景気は力強く回復するだろう」とはやし立てるのに成功し、今の米国の株式市場は負の側面をすべて無視して、上昇基調を継続することができています。ヘッジファンドは逆転を狙った大ばくちに見事に勝利したのです。

過去数年間のヘッジファンドの運用成績はさんざんなものでした。単純に指数を買ったほうが、利益はより出ていたというのが事実です。大手年金基金などの解約も増加するなど、ヘッジファンド自体が追い込まれていたという背景もあり、もともと大統領選という重要イベント後はどちらかに仕掛けようという戦略があったのです。大統領選前に多くのヘッジファンドは買いと売りの両建てで推移を見守っていたといいますが、財政悪化を意識した長期金利の上昇局面の初動において、「インフラ投資→景気刺激」「インフレ→景気刺激」という思惑にすり替えることに成功したのでしょう。

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