夢の効用
だから、この連載の最終回の最後で、僕が「グローバル人材」を志望するあなたに今一度説きたいのは、夢を持つことの大切さだ。
「夢」なんて子供じみているだろうか。「グローバル」のほうが新鮮だろうか。だが、何がはやり廃れても、桜の花は今も昔も変わらず日本人の心を打つように、夢は今も昔も若者の心を鼓舞し、駆り立て、広い世界へと導く最大の要因であり続けると思うのだ。
2300年前にアレクサンダー大王をインドにまで東征させた力の源となったのとまったく同じものが、ライト兄弟が空を飛んだ力の源となり、フォン・ブラウンが月へ行くロケットを完成させた力の源となり、またキング牧師が命をかけて黒人の権利のために立ち上がった力の源となり、スティーブ・ジョブスがITの世界で革命を起こした力の源となったのだ。そしてそれとまったく同じものが、近い将来に、僕やあなたが世界を驚かせる仕事をする力の源になるのだ。
「グローバル人材」ブームは数年で忘れられるだろう。だが、夢はあなたが一生追い続けるものだ。そしてそれをかなえるためには、はやりの服を着るように安易な道を追うよりも、桜の美しさのごとく普遍的に価値が評価される知識や能力を、コツコツと努力し地道に蓄えることのほうが、はるかに大切なのだ。
僕は計7年弱に及ぶアメリカでの勉学、研究や仕事の中で、迷ったり、転んだり、回り道をしたことは度々あったし、つらい思い、寂しい思いもたくさんしたが、その時々で僕は自分の感情と哲学に素直に従って、一歩、一歩、前へと進んできたつもりだ。その軌跡は一直線ではなかった。それでも結果的に僕は、子供の頃に見つめていた方角に向かって進み続けることができた。「夢」のおかげだと思う。ちょうど船が夜の闇の中、灯台の光を頼りに目的地を目指すように、僕の人生にはいつも「夢」の光が遠くに輝いていて、それを頼りに泳いできたから、周囲の雑音に気を煩わされず、自分の心に素直に従って、目指すべき方向に進み続けることができたのだと思う。
そう、「夢」とは結局、灯台の光のようなものなのだ。かなうこともかなわないこともあろうが、それよりももっと本質的なのは、進み続けることなのだ。人生の荒波や暗闇の中、進路を定めるために必要なのが、夢という灯台の光なのだ。その光を見失うこともあろう。目的地が変わることもあろう。ならば別の灯台を探せばよい。大事なのは、方向を定めて、前へ前へと進み続けることなのだ。進み続ければ、遠かった灯台の光が少し近くなる。それに気づいたときに小さな充足感を得る。その積み重ねの総量が、人生の面白さなのだと思う。
夢が見つからない、とあなたは言う。どう人生の目標を設定すればよいのかとあなたは悩む。無理もなかろう。現代社会が過去と比べて複雑かつ自由になり、人生の選択肢が飛躍的に増えたせいで、光がそこかしこに氾濫し、いったいどれが自分の目指すべき灯台の光なのか、わからなくなってしまうのだろう。そのうえ、いろいろな人がいろいろなことを言う。グローバルだのリーダシップだのと安易なカタカナ言葉がはやり、流行に敏感な若者が踊らされる。
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