卒業式のことを英語ではcommencementという。直訳すれば「はじまり」という意味だ。一方、日本で「はじまり」の式である入学式は、アメリカの大学では行われないことが多い。入学試験のないアメリカの大学では、入ることよりも出ることのほうが断然に大変だ。だからおのずと卒業のほうが大きな意味を持つ。大変な苦労をして卒業をした後に、卒業式で気持ちを新たにして次のステップの「はじまり」に臨むのである。
アメリカでは「卒業」が持つ意味も幾分か異なる。日本では決められた年限で卒業する人が大半だ。一方、アメリカの大学、特に大学院では、卒業までにかかる年数は人によって大きな開きがある。学位が認められるための条件(単位数や研究業績)が満たされないかぎりは決して卒業が認められないからだ。大学院では「学年」の概念すらない。卒業する時期も1年のいつでもよい。
だが、卒業式は年に1回だ。ちょうど今の季節、5月から6月上旬が、アメリカの卒業式シーズンである。僕は2012年2月にPhD(博士号)を取得し、MITを去った。先の記事に書いたとおり、NASA JPLで2カ月間のインターンをした後、4月に日本に戻り、慶応大学に着任した。そして6月に休暇を取り、卒業式に出席するためにMITに戻った。
去ったときは真冬だったボストンは、さわやかな初夏を迎えていた。この街がいちばん美しい季節である。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら