「トランプ大統領誕生なら円高」の根拠はあいまい
いよいよ米大統領選挙の投開票が11月8日(火)に行われる。9月末の第1回のテレビ討論会からクリントン候補優位が強まり、その後トランプ氏のスキャンダル報道でクリントン氏がほぼ過半数の代議員を占めつつある。
終盤になってクリントン氏のメール問題をFBI(米連邦捜査局)が再び捜査すると報じられ、トランプ候補への支持が持ち直し、金融市場は動揺している。だが、市場参加者の多くはクリントン大統領を前提に今後の相場を考えているだろう。
この夏場にかけてドル円が100円前後に接近する場面では、多くの日本人の為替アナリストは米大統領選挙を円高要因に挙げて、100円割れの円高予想がコンセンサスとなっていた。
だが、トランプ大統領が円高要因なのかは不明である。実際には、トランプ大統領誕生の影響を直接受けるはずのメキシコ・ペソが、テレビ討論会の直前の9月末に対ドルで最安値まで下落した時が、トランプリスクが最も意識された時だった。ドル円も、この時には100円付近まで円高にやや動いたものの、Brexit(英国のEU離脱)の決定直後に100円割れとなった時と同じにすぎない。
8月26日のコラム「実は根拠が薄い『100円割れ』円高の現実味」でも述べたとおり、2016年に円高が進んだ主たる要因は、(1)日銀の金融緩和が不徹底で市場の信任が損なわれたこと、(2)FRB(米連邦準備理事会)の利上げ開始の先送りが続いた、ことにある。
このコラムを書いた後に、筆者が予想したとおり、FRBの年内利上げ再開の可能性が高まった。また債券市場で期待された日銀の国債減額は実現せず、政策枠組みの転換により、金融緩和が一段と強化された。これらが、円高ドル安を転換させるドライバー(推進力)となり、10月にドル円は105円付近まで再び上昇した。米大統領選挙とドル円の関係を言い立てる為替アナリストが声高になったことが円高を長期化させたとすれば、それは投資機会だったと言えるだろう。
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