もちろんトランプ大統領の可能性はゼロではなく、トランプ候補の支持率が上昇した11月になって、米国株市場は動揺している。金融市場が楽観方向に傾いてはいない。
これは、FRBによる12月利上げが濃厚になっていることが、米株市場の上値を抑えている側面もあるだろう。ただ、トランプ氏勝利の可能性は依然低い。これらの不確定要因が年末にかけて薄れる中で、2016年年初からの行き過ぎた円高の修正が続くと筆者は予想している。
移民問題は政治リスクだが、世界経済の成長押し上げ
ところで、6月のイギリスにおけるEU離脱の選択もそうだが、米大統領選挙でのトランプ旋風による政治情勢が混沌とした一因は、各国における移民問題である。
移民問題が政治イシューとなり、移民抑制だけではなく反グローバリズムの方向への政治潮流は、金融市場にとってもリスクになる。
この問題について経済学の視点から、客観的なデータや分析をもとに説明した書籍が新刊されたので紹介したい。「移民の経済学」(東洋経済新報社)である。
この書籍では「移民拡大が労働者の賃金を引き下げ、雇用を奪う」などのトランプ氏が主張する議論について、「米国等のデータから妥当ではない」といった論説が展開されている。つまり、移民が賃金水準などにもたらす影響は定量的に極めてわずかで、雇用賃金は経済全体の状況によって決定されるのが実情ということである。
比較優位などの経済理論を踏まえれば、移民が増えることは双方の国の経済成長のプラスに働く。関税障壁を撤廃するTPPなどが、国民を豊かにするのと同じ理屈である。つまり、移民が経済活動に大きな弊害をもたらすか否かは明確ではない。移民という「わかりやすい問題」は、政治利用されやすい側面が大きいということだろう。
もちろん、社会的あるいは文化的な軋轢が大きい移民は、よりセンシティブ(敏感)な問題であり、経済の理屈だけでは対処できない部分もある。こうした移民問題についての正しい理解を深めるために、この骨太の書籍は極めて有用だと思われる。
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