「移民が仕事を奪う」という根拠なき感情論

膨大な研究成果が示す本当の影響

移民について感情的な議論ではなく、客観的な証拠に基づいて議論すると、どのようなことが見えてくるのだろうか(写真:josefkubes / PIXTA)
移民が来ると仕事が奪われ、経済にマイナスの影響があり、治安が悪くなると思っている人は多い。アメリカで移民排斥を叫ぶトランプが一定の支持を得ているのも、移民に対するネガティブな印象が背景にあるからだろう。しかし、実際のデータに基づいて議論している人はあまり見られない。
そうした根拠なき感情論と実証研究のギャップを埋める目的で刊行されたのが『移民の経済学』(テキサス工科大学自由市場研究所所長ベンジャミン・パウエル編)だ。本書の監訳者である、早稲田大学名誉教授の藪下史郎教授が執筆した日本語版の解説を、一部編集のうえ掲載する。

あまりに感情的な議論が多すぎる

「移民を受け入れると、治安が悪くなる」と思う人は多い。しかし、本書のデータによれば、アメリカでも日本でも、移民の方が犯罪率は低いという。日本にも多くの示唆を与える一冊

本書は、現在アメリカで論争の的になっている移民政策に対する警告の書である。これまで、移民のもたらす経済的効果、さらに文化的、政治的効果については、膨大な研究成果が蓄積されてきた。それにもかかわらず、現在、メディア、議会および一般社会で行われている議論の多くは感情的なものであり、移民問題に関する学術的研究に基づいていない。

こうした懸念から、これまでの膨大な研究成果をまとめて提示し、移民政策論議をより客観的かつ建設的なものに深めることを意図している。さらに本書では、これまでの研究成果、およびそれらとは異なった価値観、視点に基づく、さまざまな移民政策の功罪も論じている。

アメリカにおける移民政策の深刻さを教えてくれたものに、本年(2016年)のアメリカ大統領選挙での共和党候補者ドナルド・トランプ氏の過激な発言がある。

たとえば、メキシコとの国境に万里の長城のような巨大なフェンスを築き、メキシコからの不法移民を阻止する、イスラム教徒の入国を禁止する、などと物議を醸し出す発言を行った。選挙での票獲得を目指した詭弁であり、現実を無視した短絡的な暴言と思われる。

しかしそうした発言によってトランプ人気が出たことは、誤った(少なくとも、確固とした証拠に基づかない)事実認識をもつ、一部のアメリカ国民の心をとらえたと言えるだろう。

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