「移民が仕事を奪う」という根拠なき感情論 膨大な研究成果が示す本当の影響

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移民はアメリカだけではなく、多くの国にとって重大な問題となっており、世界全体で取り組まなければならない政策課題となっている。

市民社会への影響も俎上に

ヨーロッパにはシリアなど中東地域や北アフリカなどから多数の難民が押し寄せていることは、テレビや新聞などのメディアで日々報道されている。シリアなどの独裁政治による抑圧生活や内戦による死の恐怖の伴う劣悪な環境から逃れるために、多くの人が生命の危険を冒し国外に脱出している。

彼らは、小さなボートで地中海を渡り、トルコやギリシャ沿岸に命からがらたどり着き、その後より豊かなヨーロッパ諸国に移動しようとしている。しかしその中に多くの人々が海の藻くずになったとのテレビ報道は、われわれに大きなショックと悲しみを与えてきた。

そうした難民は、母国の劣悪な現状からより豊かな生活を求めてヨーロッパへの移住を試みているが、そのために密航業者に多額の費用を支払わなければならない。これらの人は、こうした渡航費用や密航に伴うリスクを負担し、よりよい生活を求めるという経済動機に基づいて移動しようとしているため、難民と言うよりも経済移民であると揶揄する人もいる。

彼らが経済移民と見なされようとどうであろうと、難民を受け入れた国および彼らの母国の経済社会に及ぼす影響は、メキシコなど中南米からの移民がアメリカの経済社会や母国に及ぼす影響と同じであり、ヨーロッパ諸国でも経済的、社会的、政治的な問題を引き起こすことになる。

シリア難民がヨーロッパを目指すのは、メキシコ移民がアメリカを目指すように地理的に近いこともさることながら、EU諸国が比較的移民を受け入れようとしていること、またEU自体が地域内での労働移動という理想を掲げた地域統合であることにもよるであろう。

しかしフランスをはじめ多くの国で、イスラム教徒のテロ事件が頻発するようになり、重大な政治問題となっている。それは、一部の国粋主義者などによる憎悪犯罪や移民排斥運動など人種問題にも発展している。

さらに6月に行われたイギリスのEU離脱をめぐっての国民投票においては、EU域内での東欧諸国からの移民がイギリス労働者の職を奪い、労働市場に悪影響を及ぼしているとの認識が要因となって、離脱派の勝利につながったと言われている。

自由な労働移動と競争的市場がEU域内でも経済的歪みをもたらしている可能性がある。イギリスで発生してきたテロ事件も、地域社会での所得格差の拡大、文化的、宗教的軋轢、人種差別が大きな原因となっているとも指摘される。

本書では、移民のもたらす経済的側面の影響のみならず、文化的かつ言語的な面で市民社会に溶け込み同化されているかなどの研究にも言及している。移民政策が経済だけでなく多面的な問題に関連していることが理解される。

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