第1回 2017年、世界を揺るがす「リスク」はあるか
依然解消されない欧州の南北問題
三井:前回のインタビューでは、経済を見るのに大事な視点と米国経済の現状とこれからについてお伺いしましたが、今回は引き続き、欧州経済および中国経済の現状とこれからについて質問させていただきます。
まず、欧州経済の現状についてどのように見ていらっしゃいますか?
中原:ユーロ圏のGDPは2016年1-3月期が2.2%、4-6月期が1.1%と順調に拡大を続けているように見えますが、経済規模がいちばん大きいドイツのGDP成長率が他の国々に比べて高い数字となっていて、ユーロ圏全体の成長率を底上げしています。ドイツの2015年の実質GDPは2008年と比べて6%増加したのに対して、南欧諸国のイタリアは7.8%、スペインは4.6%、ギリシャは35%も減少しているのです。
三井:その経済格差の広がりが、EUやユーロ圏の分断の原因になっているわけですね。
中原:そのとおりです。ユーロ圏の経済格差の最大の要因は、生産性の格差にあります。通常であれば、生産性の格差は各々の国の為替レートの調整で解消することができますが、統一通貨を使うユーロ圏ではそういう調整機能が存在していません。ゆえに、生産性の格差を解消する唯一の方法は、各国間の賃金の調整で行うという方法しか残されていないのです。
ところが、生産性の低い国では政治的にも社会的にも賃金の調整ができるはずがないので、その大きな代償として、失業率が高止まりする事態となって跳ね返ってきているわけです。2016年のドイツの失業率は6%程度とユーロ圏19カ国で最低水準となっていますが、生産性が低いイタリアは11%超、スペインは20%超、ギリシャは27%超と、依然として高止まりが続いているのです。フランスでさえも9%超とドイツの1.5倍の数字であるのですから、いかにドイツと他の国々の経済格差が大きいかということがはっきりとわかります。
三井:欧州に何か明るい材料はないのでしょうか?
中原:欧州は高い失業率に苦しんでいる状況下で、唯一の明るい材料であると思えるのは、原油安が自動車の販売を中心に消費拡大を促していることです。米国や日本と同じように、欧州でも自動車産業が経済全体に占めるウエートは大きく、雇用への波及効果も決して馬鹿にはできないのです。過去2年半でまがりなりにもユーロ圏の失業率が12%程度から10%程度まで下がったのは、自動車産業の回復が大きいわけです。
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