三井:続いて中国経済の行方についてお伺いしたいと思います。中原さんが昨年の2016年予測で唯一読み違えたのは、中国政府が落ち込んだ自動車市場の回復を狙って、小型車減税を行ったということではないでしょうか。
中原:唯一ということはないでしょうが……。たしかに、中国の小型車減税は私の予測から抜け落ちていましたね。それだけ中国政府の危機感も大きかったということでしょう。今や中国の自動車産業は工業生産の1割超を占め、4000万人超の雇用を生み出しているからです。
産業としての裾野が他業種と比べて広いだけに、自動車市場の悪化が続くようなことになれば、経済全体に悪影響を与えるのは避けられなかったでしょう。自動車メーカーが工場の統廃合や大幅な生産調整を始めるようになれば、雇用情勢の悪化が大幅に悪化し、その怒りの矛先は中国共産党や中国政府に向かったかもしれないのではないでしょうか。
中国は需要の先食いでしのいでいる
三井:中国共産党および政府がかなりの危機感を持って、自動車減税といった切り札で対処したということですね。
中原:そのとおりです。小型車減税の効果が大きかったせいか、中間層が拡大している内陸部を中心に、新車を購入する人々が増えています。その結果、2016年上半期の新車販売台数は前年同期比で8.3%増の1283万台となり、この勢いを年の後半も保つことができれば、国内需要と言われる2500万台を超えてくることになるでしょう。
ただし、今のような自動車市場の回復は、決して素直に喜べるものではありません。実際に自動車販売の現場では、今の状況を喜んでいるというよりも、その先のことを心配している業界関係者のほうが多いからです。自動車メーカーの多くが小型車減税に大きく依存してしまっているのです。とりわけ海外メーカーと比べて競争力が弱い国有メーカーは、これらの政策により経営を維持しているという現実があるわけです。
三井:そこで心配なのは、需要の先食いということでしょうか?
中原:よくおわかりですね。小型車減税が2016年末に終了する予定のため、駆け込み消費により需要の先食いが起こっているのは、紛れもない事実です。減税対象の小型車販売の伸び率は2016年上半期で18.8%と突出していて、乗用車全体の7割強を占めるまでになっているのですから……。小型車減税が2016年末に予定どおりに終了したら、新車販売の現場では相応の反動減を覚悟しなければなりません。供給の過剰感が強まることで安売り競争にいっそう拍車がかかり、疲弊したメーカーのなかには破綻するところが出てくるかもしれないのです。
小型車減税を2017末まで1年間延長して、目先の反動減を回避できたとしても、延長によって需要の先食いは従来よりも大きくなっているはずなので、その後の反動も従来よりも深刻になるということを覚悟しなければならないでしょう。いずれにせよ、自動車市場の先行きは厳しいものとなるはずです。
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