米大統領選前から円安を予想した「二つの理由」
今回は、前回のコラム「米大統領選後は再び円安ドル高の流れになる」
(米大統領選直前の11月7日に配信)の反省から始めたい。
筆者は、この中で「トランプ勝利の可能性は依然低い」と書いていた。実際には、米投資家は大統領選挙後の変動に備えたポジション管理を徹底するなど備えは十分だった。
ただ、直近の世論調査での「クリントン優勢」の情報に左右され、「可能性が低い」と書いたのは、筆者の思慮が甘かった部分である。
一方で「『トランプ大統領なら円高』の根拠はあいまい」と引き続き強調したのは、正しかった。筆者は夏場から日本の為替アナリストの大半が予想していた(大統領選挙後も、なお円高予想が多く唱えられている)、「100円を下回る円高予想」は、外れるだろうと考えていた。この点については、自分なりに確度が高い予想であったこともあり、繰り返し言及していた。仮にトランプ大統領でも、為替アナリストが言うほど円高要因にはならないと判断していた。
その理由の一つは、米国を中心に世界経済の復調が夏場から明らかになっていたことがある。FRB(米連邦準備理事会)の利上げを妨げるのは、海外に起因する市場の混乱だが、中国経済も小康状態となりそうしたリスクがかなり低下していた。リスクに慎重だったFRBが利上げできる環境なら、100円付近の行き過ぎた円高は修正されると予想した。そして、大規模な減税を掲げるトランプ政権は、「米国経済の回復をもたらし、金利上昇と株高をもたらす」とシンプルに教科書どおりに考えた。
もう一つ筆者が重視したことは、日本銀行が9月に発表したイールドカーブ・コントロール採用などの政策転換が成功すると判断し、これが円高の反転をもたらすとみていたからである。
9月26日のコラム「日銀批判論者は『ガラパゴス化している』」でも書いたように、日銀の新たな政府フレームワークは明確な金融緩和強化であり、円高に歯止めをかけるのに十分な対応と認識した。
当時の「金融緩和の限界」などのメディアの報道は妥当とは思われないが、多くのメディアと同様の認識を持つ為替アナリストは未だにいるとみられる。しかし、日本と米国の金融政策の方向性、それらに対する評価がドル円の方向を決めるわけで、2016年前半までの円高ドル安が進んだ理由はそれに求められるが、その構図が変わった。
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