為替市場は8月に入ってから、1ドル100円前後での推移が続いている。7月初旬には日本の財政政策拡大やヘリコプターマネー(ヘリマネ)政策への思惑から、一時110円に接近する動きをみせた。その後、補正予算の規模が4兆円と通常の年からわずかな上積みとなったと認識され、ドル円は再び円高方向に向かった。FRBによる利上げ再開に対する市場の期待が揺れ動いていることも、ドル安圧力を強めている。
そして足元では、今後1ドル100円割れが定着するとの予想が、為替アナリストの中で多数派になっているように見受けられる。それらの予想の根拠は、多くが理論的ではないと筆者は考えている。1年余り続く円高基調が続く中で、「100円というフシ目」まではこれが続くという流れに追随するのが得策との思惑が、円高地合いのひとつの背景と思われる。
投資家の多くが日銀政策に疑念を抱いている
また理論的に説明できる円高要因として挙げられるのが、日本銀行の金融緩和策が十分ではなく、2%インフレに対する日銀のコミットメントが揺らいでしまったことだ。2015年末に意表をつく形で発表された緩和補完措置、その後の2016年1月末のマイナス金利導入などは、金融緩和を強化の手段であり理屈上は金融緩和強化である。ただ、マイナス金利は経済成長率にネガティブに作用するとの見方(筆者は妥当ではないと認識している)に加えて、マイナス金利で利益が減るとの意見もあり評判が悪い。
その結果、市場とのコミュニケーションに失敗し、日銀の金融緩和の効果がしっかり発揮されていない。2014年の消費増税による成長失速から抜け出せずデフレ圧力が高まる中で、日銀が2%のインフレ目標に向けて脱デフレという正常化を実現するために金融政策を強化するのか、投資家の多くが疑念を抱いているということである。
実際に4月から景気停滞と円高で期待インフレ率の低下が顕著なのに、日銀は金融緩和政策の強化を何度か見送った。また7月の政策決定会合において、「3次元の緩和手段」のひとつであるETF買い入れしか行われなかったことも、日銀が金融緩和政策の強化を徹底しないとの疑念をもたらしている。「インフレ・デフレ」は貨幣的現象であり、中央銀行のバランスシート規模が究極的に作用する。インフレ目標へのコミットメントに際して、国債購入の規模で決まる中央銀行のバランスシートの動きは、インフレ期待に働きかける操作変数として極めて重要と筆者は考えている。
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