そしてインフレ目標へのコミットメントの強さが、インフレ期待を通じて通貨安をもたらす。もちろん、黒田総裁は、「金融緩和に躊躇しない」と繰り返しているが、それを投資家が信用しなくなっている。デフレを許容することと行き過ぎた円高を容認することはほぼ同義であり、日銀の対応への信認の低下が、最近の1ドル100円に接近するような行き過ぎた円高につながっているとみられる。
8月中旬に市場の値動きが小さくなってから、市場では、ドル円が100に接近しても、日本株が6月のBrexit直後のように大きく下げなかった。これをみて、円高が日本株高をもたらすかもしれないとの見方が出ている。
実際には、2016年の世界の株式市場を比較すると日本株のパフォーマンスが圧倒的に悪い。デフレに戻る瀬戸際にある日本経済の状況を踏まえれば、円高の行き過ぎの修正が株高に直結するのが現実であるが、マクロ経済の動向を軽視してドル円の方向を語る論者の声が大きくなっている。冒頭で述べたが、7月に財政支出拡大とヘリマネへの思惑が高まり円高修正の動きが見られたが、日本の当局による成長押し上げ+インフレ醸成策が、円高修正をもたらすことは明らかである。
脱デフレへのコミットメントがもっと必要
目先の8月末にかけては、イエレンFRB議長のジャクソンホールでの講演における利上げ開始への思惑がドル円相場の最大の材料になるが、9月になれば日銀の政策対応が再びドル円の方向を大きく決めるだろう。9月の日銀政策決定会合でこれまでの金融政策の検証が行われるが、これを巡り市場ではさまざまな思惑が飛び交っている。債券市場などでは、「技術的な限界」という根拠が薄い理由によって国債買入金額を減額するとの見方が広がっているが、これも8月初旬からの円高地合いの一因だろう。
ただ、日銀が、国債購入ペースを減額する金融引き締め策に転じる可能性は極めて低いと筆者は予想する。中銀の金融政策は、一部市場参加者の都合に左右されるわけがなく、経済成長の底上げと2%インフレ目標実現のために行われる。そうした日本銀行の政策は変わらないなら、検討されるのは国債を含めた量的な資産購入積み上げになるだろう。
さらに、実質金利を低下させることができるため、マイナス金利政策の深掘りについても検討対象になるだろう。これらの緩和手段を徹底することで、日銀による金融緩和強化により、脱デフレへのコミットメントを強めることが、根拠なき円高を転換させる一つの条件になると考える。
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